「しっかりと自分十分な仕事、芳賀薫監督の初映画作品」風のマジム TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
しっかりと自分十分な仕事、芳賀薫監督の初映画作品
劇場で観た楽し気な本作のトレーラー。作品の評判も大変に良さそう(沖縄では1週前から先行上映)なので迷わず今週の2本目に選出です。
本作は沖縄、南大東島が舞台となるご当地映画(実際のロケ地は読谷村、うるま市、糸満市など)。煮え切らない日常を過ごしていた主人公に、あるきっかけで“目標”が出来てその達成に向けて努力していく“成長譚”を描いた王道な作風で、周りを固める出演陣もなかなかに豪華な一作です。
伊波まじむ(伊藤沙莉)は契約社員として、正社員のアシスタントや雑用ばかりを任されており、仕事に対する将来性に確信を持てずにいます。その日も渡された不要書類をシュレッダーにかけていると不意に「社内ベンチャーコンクール募集」というチラシに目が留まります。そしてその晩、祖母・カマル(高畑淳子)の血を継いで酒をこよなく愛するまじむは、行きつけのバーのバーテンダー・吾朗(染谷将太)の勧めで口にした“ラム”の美味しさに感動。更にその原料がサトウキビだと教えられ「沖縄原産のラムを作りたい!」と言う衝動に駆られます。そしてそのアイデアを断ち切れず、件の社内コンクールに応募してみたところ…
監督の芳賀薫さんは本作が初の映画作品ということですが、映像化された作品も多い人気作家である原田マハさんの原作で、確立されたフォーマットで観る側も安心して楽しめるご当地映画、そして高い実績で任せて安心の岡部哲也さんを助監督に据えた鉄壁の布陣と、初陣ながらしっかり自分十分な仕事をされている思います。
思わぬきっかけで“目標”が見つかり、それを評価されて“実行”に移さざるを得ない状況になって覚悟をもって挑むまじむ。ですが事は簡単には進むわけもなく、応援や後押しもあれば岩盤のような抵抗や、弱り目には意地悪とも感じる“頭ごなしな否定”に凹みそうになることも。それでも諦めない“まじむの本気”に比例するように増えていく理解者や賛同者の協力、そして成功には不確実ながらも不可欠な“運”も味方をし、難攻不落と思われた目標に現実味が帯び始める展開に、ついつい熱くなって涙腺を刺激されます。
また、ご当地映画の楽しみの一つ「ご当地メシ」がマジ旨そうなところも間違いのないストロングポイント。冒頭からまじむの実家が営む豆腐店で、作りたてで供される「ゆしどうふ」にクラックラするほど興奮。さらに、まじむの後輩・一平(なかち)の妻・志保(下地萌音)が働く食堂の「大東そばと大東寿司のセット(ソーキ2枚追加)」を見てしまうと最早ロックオン。お腹が鳴って空腹感に拍車がかかること必至です。更に叶うことなら、勧め上手で教え上手なバーテンダー・吾朗が注ぐ酒があったらもう天国と言って過言ではない。いやぁ、参りました。。。
沖縄ローカルで活躍されている俳優さん、タレントさん、芸人さんも独特の温度感、リズム感で雰囲気が伝わるため作品を引き立てておられますし、県外出身者の皆さんだって流石の演技で見応え充分。主演の伊藤沙莉さんは言うまでもなく素晴らしいのですが、何と言っても高畑淳子さんは今作でも凄まじい存在感。迷うまじむに以心伝心で重要なことを伝える姿に、スクリーン越しにも伝わるカマルの「おばぁの生き様」を見たような気がしました。正に名優。
