「根拠の希薄な正しさの強要、反証不能性、宗教勧誘の持つ加虐性を何倍にも濃縮して追体験させる」異端者の家 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
根拠の希薄な正しさの強要、反証不能性、宗教勧誘の持つ加虐性を何倍にも濃縮して追体験させる
シスター・パクストンとシスター・バーンズは、布教のため森に囲まれた一軒家を訪れる。ドアベルを鳴らすと、出てきたのはリードという気さくな男性。妻が在宅中と聞いて安心した2人は家の中で話をすることに。早速説明を始めたところ、天才的な頭脳を持つリードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開する。不穏な空気を感じた2人は密かに帰ろうとするが、玄関の鍵は閉ざされており、助けを呼ぼうにも携帯の電波は繋がらない。教会から呼び戻されたと嘘をつく2人に、帰るには家の奥にある2つの扉のどちらかから出るしかないとリードは言う。信仰心を試す扉の先で、彼女たちに待ち受ける悪夢のような「真相」とは——(公式サイトより)。
宗教とは、信仰とは何かをテーマとした会話劇で進むサイコスリラー。恐怖は、閉鎖空間、粘性のある液体、不釣り合いな音楽、灯り等々、色々な要素で醸し出されるが、本作では特にコミュニケーション不全が印象的。同じ言語なのに、何を言っても反駁されそうな、妥結点を見出しづらそうな予感、目的の見えない対話相手は無邪気に楽しんでいる、そんな空気が場を延々と支配する感覚。
狂気の家人リードは完全にイカれてはいるものの、その論旨には本質を突く何かがある。歴史的にみて、聖書のようなストーリーが少なくとも12は存在しており、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教はそれぞれ別の視点からまとめられただけの反復であること、教義は時代の統治者によって、神託という名の下に容易に改ざんされることを、昔からあるボードゲーム「モノポリー」に喩えて喝破する。シスターたちに対して、根拠の希薄な正しさの強要、反証不能性、宗教勧誘の持つ加虐性を何倍にも濃縮して追体験させる。
シスター役のソフィー・サッチャーとクロエ・イーストはフレッシュさが良かった。「ロマコメの帝王」であるヒュー・グラントが神学、宗教学に深く通じたサイコなリードを好演。日本で言えば石田純一が演じたみたいなものか。違うか。
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