「宗教への懐疑と狂気を描いた良作」異端者の家 kou-sukeさんの映画レビュー(感想・評価)
宗教への懐疑と狂気を描いた良作
私は日本生まれ。神社や寺には何らかのタイミングで行くが、信仰心がある訳ではない自称無宗教家だ。
その為、本作を完全に理解出来たかどうかの自信は無い。
特にモルモン教については無知だったので、キリスト教も色々あるんだなぁと思った。
そりゃそうか、日本にも幸福の科学だのエホバだの創価学会だの派生宗教があるんだし、そりゃ宗教が盛んな国であれば多岐に渡るだろう。
本作は、そんな宗教への懐疑と学問的探究が行き着く先にある狂気を描いた良作だと思う。
主人公であるバーンズとパクストンの2人、ソフィー・サッチャーとクロエ・イーストは昨今の映画としては、どちらもビジュも演技も良く、顔面アップの演技が多い中でも画面の満足度は高いままだったのが好印象。
だがしかし、やはりヒュー・グラントのミスターリード役の怪演。
目尻の皺に安心感と底知れない不快感を両立させるのは見事な演技だ。
語る言葉は全て嘘が混じり、不信感を与えつつ、納得させられるような語り方は見事としか言いようがない。
特に教授のように宗教の反復を語るシーンは、本当に面白い。モノポリーや音楽に例えるシーンは本作の中でも突出して面白い名シーンだと思った。
その後、帰るために2つの扉を選ばせるのだが、ここからはスリラー要素が強くなり、大衆的なスリラー映画の立ち位置に戻ってしまった。
個人的には、ここが一番残念だったのだが、
「BELIEF」と「DISBELIEF」の扉を選ばせるのだが、この扉は結局同じ地下室へ繋がっているのである。
この時点で、リードが示す選択は結論ありきであり、対話を望んでいるキャラでは無い事が露呈してしまうのだ。
その後、なんやかんやあり、彼の終点思想は「宗教=支配」かつ「支配者=神」である事が分かる。
この辺りが恐怖と暴力を用いた結論ありきの行動で、前半の対話を用いて動いていた姿との乖離がモヤっとしてしまった。
最後、シスターパンクストンが語る祈りと、バーンズの奇跡の一撃。
特に祈りについての言葉。実験の結果、祈りに効果はないけど、その姿は美しいし意義はある。これは人が信仰する上での本質だと思わせられる名シーン。
脱出後のラストシーン。
パンクストンが語る「生まれ変わったら蝶になりたい。私だと分かるように指先に停まるの」と語ったように、彼女の指先に蝶が停まり、それは幻覚のように消えてしまう。
彼女の死の直前に見た幻だったのか、その語りを聞いていたバーンズが別れの挨拶に来たのか。それとも全ては映画の中と言う「胡蝶の夢」だったのか‥‥。
雪の中の屋外シーンは、空気の澱みからの解放もあり、爽やかさも感じる美しさだった。
残念な印象の箇所もあるが、悪役の新たな形を示してくれた良作だったと思う。
今後、この方向のヒールキャラを扱った、スケールの大きな作品を期待したい。
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