「友人に連れて行ってもらったためヒプマイは知らない」ヒプノシスマイク Division Rap Battle つつじさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0友人に連れて行ってもらったためヒプマイは知らない

2025年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

昨今のインタラクティブコンテンツにアニメ映画が参入する、と気になっていたところヒプノシスマイクに明るい友人が連れていってくれることになった。

鑑賞前に映画館のロビーで友人と私は約束を交わした。事前にアプリをインストールしておくこと。そして、ヨコハマの投票には必ず入れること。

着席すると友人は私に手を出すように言った。
素直に従うと、巾着の中身を私の手のひらに出した。
ダイヤモンドカット風の青いプラスチックがガラガラと落とされる。10個ほどだったが大ぶりであったため手のひらに小さな山を作っている。
よく見ると指輪型のライトのようで、これも素直にはめた。

週末の映画館に話題作ということもあってか、予告が始まる頃にはほとんど満席だった。
前の座席に座っている人も両手に20個くらい青い指輪型のライトをはめていた。少し暗くなるとより分かりやすいが、同じような青の光がざっと数えるだけでも30は見えた。
ふと、自由に投票してね、と友人が呟く。
そこで私の投票結果に左右されることなくヨコハマが優勝することを確信した。

なぜこんな話をするのか、俺には理由が2つある。
1つ、映画館を選んだ時点でエンディングが決まる場合があるから。
2つ、興味を持ったその瞬間からヒプノシスは始まっているからだ。

ヒプノシスマイクは政権争いラップ映画に見せかけた観客自身のあり方を映す鏡である。
この映画に登場する男性3人1組のラップチーム、通称ディビジョンはそれぞれに治めている都市がある。
それにプラス1組女性3人で構成される言の葉党というラップ政党があり、こちらは現在の与党である。
言の葉党対野党のトーナメント選挙(トーナメント選挙とはなんだ)を追う形でストーリーが進んでいく。

そんなことはどうでもいい。問題は俺たちがどのディビジョンにこの日本を任せるべきかということだけだ。
各ディビジョンは投票前に政権公約ラップを披露してくれる。ここから各ディビジョンの色を感じ取り、私たちはより良い未来に一票を投じることができる。

違う!そんなことが言いたいわけでもない。
映画公式サイトを見てほしい。映画館ごとに勝率データを見ることができる。これが、まさにこの部分がこの映画の本質である。

池袋、新宿、渋谷、横浜、愛知、大阪の映画館は9割がたその地域の名を冠したディビジョンが優勝している。
一方でそれらの地域外の野良ディビジョン映画館の勝率はかなり割れている。
映画館を選んだ時点でEDが決まる場合があるというのはこういうことだ。

前者の映画館では安定して特定のディビジョンの優勝を見ることができる。ただし、ここでは鑑賞者の意思は重要視されない。そこは彼らの統治する土地であり、アイデンティティであり、侵しがたい領域だからである。それでも鑑賞者は一縷の望みにかけて他のディビジョンに投票することができる。そうして勝ち得た1割の優勝たちはどれほど尊く、憎らしいものだろうか。
後者の映画館では常にひりついた一票の重さを感じることになる。鑑賞者が画面をタップするために与えられた時間はたったの10秒。その10秒の間に映像から得た様々な情報が脳内を駆け巡ることになる。もしもこちらが勝てば2曲目が聞ける、しかしあちらのディビジョンには勝ってほしい理由がある。そして映画が終わるとスマホに得票率が表示される。その数字が50に近ければ近いほど鑑賞者は自身の選択の有効性を実感することになる。
この非常にメタ的な面白さが本作の鑑賞を唯一無二の体験にしているではないだろうか。

本作の技術面にも少しだけ触れたい。
メタ的な面白さを除いた本作最大の魅力は非常に手の込んだ3DCGとそれを引き立てるための構図だろう。
昨今の3DCGは衣装替えが前提となっているものが多く、衣装と素体のアンバランスさが気になることがある。
しかし本作のラッパーたちは同じ衣装で日常からバトルまでこなしてしまうため、衣装込みでの細かい比率の調整がなされている。
関節部分に着目するとよりわかりやすい。腕を曲げた際の不自然なへこみや盛り上がり、それを布であるとした際に出るはずのない・あるはずの陰影への違和感が様々な角度の手法を持って排除されている。
2Dデザインからセルルック3DCGへの変換でいえばひとつの正解をたたき出しているかもしれない。つまり、イラストのイメージがそのまま3DCGになっている。これは非常に恐ろしい話である。
本当に欲を言えば、先鋒中堅のマイク起動演出も大将並みにしてほしかった。

さて冒頭の話に戻るが、私はより安定した勝利のために最終戦まで入れられる選択はヨコハマにいれた。
ほとんど予定調和のヨコハマ優勝であったが、会場全体が異様な一体感に包まれていて妙な迫力を感じた。
帰りの横浜駅で感想を交わしている時、友人は何でもないことのように今日は言の葉党に一票を投じたと言った。
盤石な勝利か、1割の希望か、はたまた全方位の闘争か。これを読むあなたは何を選ぶのだろうか。

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つつじ