「晩年はエクスキューズにはならないので、いっそのこと「悪魔」で終わらせた方が良かったのではないだろうか」ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
晩年はエクスキューズにはならないので、いっそのこと「悪魔」で終わらせた方が良かったのではないだろうか
2025.2.13 字幕 アップリンク京都
2023年のドイツ&オーストリア&スイス&イギリス合作の映画(121分、PG12)
実在の人物であるステラ・ゴルトシュラークを描いた伝記映画
監督はキリアン・リートホープ
脚本はマルク・ブルーバウム&キリアン・リートホーク
原題は『Stella. Ein Leben.』、英題は『Stella. A Life.』で、「ステラ、その生涯」という意味
物語の舞台は、1940年のドイツ・ベルリン
アメリカのブロードウェイに行くことを夢見ているジャズシンガーのステラ・ゴルトシュラーク(パウラ・ベーア、老齢期:Irene Rindje)は、バンドリーダーでギターのアーロン(べキム・ラティフィ)、恋人のトランペット奏者フレート(ダミアン・ハルトン)、ドラムのジョニー(ジョエル・バズマン)、トランペット奏者のテオ(コンスタンティン・グリエス)たちと一緒にショーを行っていた
バックコーラスには友人のリロ(ナディア・サベルスキー)、インゲ(メイブ・メテルカ)も加わり、コントラバス奏者フリッツ(Alexander Martschewski)らも名を連ねていた
時はナチスによるホロコースト初期で、じんわりと排斥運動が動き始めていたが、まだ身に危険が及ぶほどではなかった
それから3年後、ステラたちの夢は叶わないまま第二次世界大戦に突入し、彼女たちは鉄工所で働くことを余儀なくされていた
ステラの父ゲルト(ルーカス・ミコ)はこれまでに祖国に尽くしてきたことを誇りに思っていて、ユダヤ人とは言え、自国民を酷い目に遭わせるとは思っていなかった
母トニ(カーチャ・リーマン)は娘の奔放さに呆れていたが、家族を支えるために奮闘していた
ある日のこと、工場内のユダヤ人が外に呼び出されてしまう
知り合いのイリヤ(ヴィンセント・コッホ)の計らいで難を逃れたステラの家族たちは、安全な場所を求めて潜伏生活に入ることになった
だが、ステラは身分証を手に入れたいと考えていて、ジョニーの知り合いであるロルフ(ヤニス・ニーヴーナー)とコンタクトを取るために頻繁に危険な外出を繰り返していく
その後、ロルフとともに身分証を売り回る日々が募ったものの、友人のインゲの密告によって捕まってしまう
ステラは治療の隙に逃げ出すことに成功したが、いまだに家族の身分証まで手に入れるところまで至らず、そこで偽造請負としているツィオマ(Joshua Seelenbider)とミッキー(Max Schimmelpfenning)とコンタクトを取ること
そして、彼らとともに将校を誘惑したり襲ったりして、白紙の身分証を手に入れる生活を始めるのである
映画は、ステラのほぼ一生を描いていて、最後までしぶとく生き残る様子が描かれていく
彼女はゲシュタポのドッベルケ(Gerdy Zint)に引き取られ、そこでユダヤ人の潜伏先を吐かされるのだが、当初は命欲しさだったものが、徐々に自身の行為を正当化していく様子が描かれていた
自分自身を被害者だと思い込んで告発をしていく様子は狂気じみていて、金髪の悪魔などと呼ばれるようになっていく
そして、自身は終戦まで生き延びることができるものの、家族はアウシュヴィッツで殺され、子どもからも突き放された人生を送ることになってしまったのである
映画では、最初の夫フレート、2番目の強制婚まで描かれるものの、3番目の夫と子どもに関してはほとんど語られない
それでも、晩年の自殺未遂は描き、最後の死は字幕表記という微妙な構成になっていて、これならば自殺未遂のシーンから字幕で説明するか、最後の不審死まできちんと描いた方が良かったのではないだろうか
いずれにせよ、ステラが生き延びるために闇落ちをしていくという過程は良かったと思うので、終戦と同時に映画を終わらせても良かったと思う
最終的に川で溺死という奇妙な死に方をしているのだが、それはスルーで投身自殺だけをサラッと描くのは意味がわからない
晩年の彼女もどのように生きて来たのかとか、その苦悩というものはほとんど描かれないので、唐突な飛び降りも意味がわからない
終戦から30年もの間をスルーしているのは尺の都合だと思うのだが、この構成ならば「ステラは悪魔だった」で終わらせた方がスッキリしたのではないだろうか