視線
2022年製作/96分/アメリカ
原題または英題:Watcher
スタッフ・キャスト
- 監督
- クロエ・オクノ
- 製作
- ロイ・リー
- スティーブン・シュナイダー
- デレク・ドーチー
- メイソン・ノビック
- ジョン・ファインモア
- アーロン・カプラン
- ショーン・ペローネ
- 製作総指揮
- ベン・ロス
- ラミ・ヤシン
- ガビ・アンタル
- ジェームズ・ホップ
- エリザベス・グレイブ
- 原作
- ザック・フォード
- 脚本
- クロエ・オクノ
- 撮影
- ベンジャミン・カーク・ニールセン
- 編集
- マイケル・ブロック
- 音楽
- ネイサン・ハルパーン
2022年製作/96分/アメリカ
原題または英題:Watcher
これは見事なスリラー映画だった。
まず、この往年の古典サスペンスのような邦題が良い。
誰かに見られているかもしれないという恐怖。
誰かが後ろにいるのかもしれないという恐怖。
最初は小さな思い込みが、
想像が想像を呼び、疑念が少しずつ膨れ上がり、やがて想像を絶する大きな恐怖へと変わる。
そもそも映画というのものは、観客が、その作品内で起きる様々な出来事を神の視点で「見る」行為のうえで成り立っている娯楽である。
ところが本作では、
主人公の目線から、観客も誰かに「見られている」という逆転が起こる。
見る、見られるという、この実にシンプルかつプリミティブな行為を、
見事な心理スリラーに落とし込んでいるのだ。
更に本作には、もう一つ素晴らしい肉付けがされている。
主人公が新生活を送ることになった土地が、異国の地(ルーマニアのブカレスト)ゆえに、
“言葉が分からない”ということ。
タクシー運転手との会話、
博物館のスタッフからの撮影注意、
ニュース映像、
夫の友人との会食、
ネコおばあさんとの会話など、
言葉が分からないせいで、日常のあらゆる場面で主人公が味わう、孤独感、もとい、孤立感。
しかも本作では、ルーマニア後の台詞は字幕テロップも出ないという仕様になっており、
これにより観客も、主人公の精神に、より同調できるような演出が成されている。
この辺の作りも秀逸だ。
即ち、
誰かに見られているかもしれないという不安と、言葉が分からないという不安。
二重の不安が、主人公の精神をじわじわと蝕んでいき、追い詰められ、神経症的にまで陥っていく。
これは所謂、ニューロティック・スリラーというジャンルであり、
主人公の心理的な不安定さが強調されたスリラー作品の事を指している。
古くは、古典の傑作の「ガス燈」や「バニーレークは行方不明」、ヒッチコックの「バルカン超特急」、
「フライト・プラン」や「ブレーキ・ダウン」、
そして「透明人間」(リブート版)なんかも、このジャンルを見事に落とし込んだ傑作だった。
本作も、その新たな1ページを刻んだ傑作と言えるだろう。
前置きが長くなってしまったが、本編の感想。
まず、オープニングで、新居のアパートに着いた主人公を、窓から住人が「見ている」。
そして夫と甘く激しい夜のひとときを過ごしながら、画面が固定のままゆっくりとズームアウトしていく。
まるでこの夫婦の情事を、「誰かが見ているのかもしれない」とも取れる意味深さがあり、
タイトルバックの「Watcher」の、異様な赤赤と大きなテロップも実に不気味だ。
隣の部屋から聞こえてくる物音。
誰かが後をつけてきているのかもしれないという気配。
映画館で自分の後ろに座る誰か。
スーパーで自分を見ている誰か。
主人公が、自身を見ているのかもしれないと思っている相手を、ピンボケで映しているのが実に効果的だ。
そして中盤、隣人のイリナの彼氏の登場により、ストーリーは大きくドライブしていく。
ネコおばあさんや、隣人が所有しているある物など、伏線も上手く敷かれていたと思う。
クライマックスのあるシーンも、かなりショッキングだった。
また後半、とある急に後ろから袋を…の悪夢のシーンのジャンプスケアには、素で仰天してしまった(笑)
総評として、非常に良質なスリラー映画だった。
まあ、ちょっとラストの展開はややツッコミどころを感じなくは無かったが(いやいや生きてるんかーいという)、
もっともっと知名度が広まってほしいと思う、まさに掘り出し物の逸品だったと思う。
ジャパニーズホラーとも相性が良さそうなので、リメイクしても面白いかもしれない。