劇場公開日 2025年1月17日

「子供の振り切ったゲスぶりを産み出した親の絶望の描写が潔いかも。」満ち足りた家族 ふくすけさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0子供の振り切ったゲスぶりを産み出した親の絶望の描写が潔いかも。

2025年3月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

弁護士の兄ジェワンは、最初、世間体故に娘の犯罪を隠蔽しようとする。

弟の小児科医ジェギュは、逆に、最初は、正義感から息子を自首させようとする。

ところが最後になって立場が逆転し、兄は娘のために罪を償わせるために自首を、弟は息子を守るために隠蔽を画策する。

そのチェンジのタイミングはそれぞれの親が自分自身のスタイルや信念でなく、直の子供と向き合ったあとのことだ。

兄ジェワンは娘の人としての更生を願い、弟のジェギュは息子の涙の反省で子の真実を悟る。そしてそれは簡単に裏切られるのだ。

子供と向き合い理解したという想いは幻想だったのだ。

それぞれの親が理解したと思った子供の真実は、ゲスの極みである子供の言動で打ち砕かれる。

兄のジェワンは最後に人としての尊厳を取り戻したかに見えたが、弟のジェギュによってその信念は破壊される。

最初の富豪の三男のゲスぶりもそのままで何も回収されない。

子供たちのゲスはまったく回収されない。

この絶望は深い。

親はもはや「まともさ」を留めた最後の世代かもしれず、ゲスを生み出したあとに滅びるしかないのだ。

全体に分かりにくいところ、不自然な展開はまったくなく、全てが予定調和で展開する。

エンタメとして破綻なく、謎めいたこともなく、それでも深いところに届く描写は韓国映画ならではなのかもしれない。

父を亡くした放蕩娘、人殺しになった父と人殺しの息子。
このまま子供たちの罪が罰せられるか、隠蔽されるか。もはやどうなるかわからない。
この後子供たちはどうなるかの視点はもはや無い。
なかなかにえぐい。

映画のポスターの「満ち足りた家族」の後ろの英語の表題は「A Normal Family」。

あの、およそ庶民とはかけ離れた生活、レストラン、下層の人たちとの対比を、どちらも「A Normal」(これが普通でしょ)と言ってしまう韓国の絶望を他人事と私たちは言えるだろうか?

ふくすけ