「去り行く命と生まれてくる命が交差する世界で」We Live in Time この時を生きて おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
去り行く命と生まれてくる命が交差する世界で
この映画は難病をテーマにしているものの、主人公夫婦と作品自体が常にユーモアに満ちており、とても観やすかった。
物語は時間軸が複雑に交差する構成で、特に序盤は頭が混乱した。
新しい場面に切り替わるたび、それが結婚前なのか後なのか、子どもが生まれる前か後か、1回目の治療中か2回目の治療中かといったことを、画面の情報から推測しなければならず、理解に時間がかかった。
かなり早い段階で夫婦に娘がいることが明かされるが、結婚前の場面では妻となるアルムートが「子どもは欲しくない」と考えているため、「なぜ子どもを授かることになるのだろう?」というミステリーになっていた。
結婚前は子どもを望まない妻と子どもが欲しい夫で、二人の関係は破局寸前まで行くが、途中で考えを変えた夫の「先の未来より今が大事」という言葉に感動。
この場面があるから、映画序盤で夫婦が下す大きな決断も、この二人なら必然だと感じられた。
結果的にアルムートは子どもを作る選択をするが、その後の彼女の運命を知っている観客としては、その選択が大きな代償を伴うことに胸を締め付けられる。
そして、娘が二人にとってどれほど重要な存在であるかを思い知らされた。
最終的にアルムートが「娘のため」に行動する姿は、結婚前の彼女からは想像もできない変化だが、映画を通して彼女の変化を追うことで納得できるし、その変遷は非常に感動的だった。
中盤の出産シーンは、他の映画では見たことのないような壮絶な場面だった。
このシーンでは、画面に映る役者全員の演技に圧倒され、まるで舞台劇を観ているかのようだった。
扉の鍵が壊れてベテラン店員の女性が「私に任せときな」という雰囲気で取った行動には思わず笑ってしまった。
全力で泣かせにくる場面にもできたはずなのに、こうした場面でもユーモアを忘れない点が好感を持てた。
シェフであるアルムートと部下の女性の関係も素敵だった。
料理への純粋な気持ちと相手を思いやる心から、二人がバディになっていく過程は観ていて気持ちよかった。
最後の料理シーンは、師匠から弟子への一子相伝のようにも感じられた。
この映画は「過去にこういう行動をとった人だから今こういう行動を取るのは当然」というように、登場人物たちの行動原理が一貫していて、脚本が巧みに感じた。
ただ、それとは別に、個人的にもやもやする気持ちも残った。
アルムートと自分は別の人間なので考え方が違うのは当然だが、もし自分だったら「一度乗り越えられたのだから次も余裕で乗り越えられるはず」と考えると思う。
娘もそっちの方が嬉しいはず。
個人的に9ヶ月間の地獄のような抗がん剤治療の経験があるが、友達も恋人もいない自分がもしアルムートと同じ状況になったとしたらそうするだろうし、大切な人がいて強い意思を持つアルムートであればなおさらそうするのでは?と映画を観ながらずっと考えていた。
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