劇場公開日 2025年1月24日

「ルーマニアもすごいですね。」おんどりの鳴く前に sokenbiteaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ルーマニアもすごいですね。

2025年2月11日
iPhoneアプリから投稿

傑作。
素晴らしい。
遠いルーマニアでこんないい映画が作られて、それをせいぜい二千円払えば見れるんだから、なんかこう、それだけでもこの2025年のこの時代に生きてられて幸せだなあ、としみじみ思った。

なんか最初は、映画っぽくないというか、なんの変哲もない田舎の、古めの、安めのマンションの一室で、その部屋を売るの売らないのと談義している。
冴えない中年が何の面白味もない会話してて、ここから何か衝撃の展開が起こるとはほんとに、全く思えないのが、後から考えるとすごい。

その何の変哲もない田舎の村の様子を描くノリは結構長いこと続きますが、そこは我慢です。
(自分は東欧の田舎の見慣れない感じが単純に興味深くて楽しく見れましたが。)
その普通の村の日常も、その後の事件の背景として、直接的ではなくとも、何一つ欠くことができない要素として描かれているのだと思います。
実際その中で、村の人々の関係や、その中の主人公の立ち位置、抱いている思いが、キャンパスに一筆ずつ絵の具が乗っていくように、丁寧に現されていきます。

そしてとうとう事件が起こる。
その中の主人公の行動はなんとも煮え切らず、見ている人は全員イライラするでしょう。
しかしその彼が、様々に起こる出来事に流されて、とうとうある結末に至る。

自分はその全てに、煮え切らなさも、最後に取る行動もすべて、心の深いところから、共感を覚えました。
ダメなところは身につまされる思いで、いいところは、自分も同じ思いは持ってるんだから同じようにやれるはずだ、と思いながら。

ところでこの主人公、映ったまんまの、パッとしない、あーでもこういう人いるよなーっていう、ほんと普通のダメ男に見えますよね?
この俳優の人もまんまこういうキャラクターの人なんだろうな、と思うじゃないですか。
でもこれはこのようにあえて作って、演じてるそうです。
パンフレットによると、最初は目に力がありすぎて、監督がもっと死んだ目になれと注文をつけたら、数ヶ月後に現れたときにはこういう男になっていたんだそうです。

自分の話になっちゃうんですけど昔初めてブレア・ウィッチ・プロジェクト見た時に、人間の想像力ってなんてすごいんだろう!って感動して泣いたことあるんですよね(笑)。
そのときと同じように、東欧の片田舎を舞台に、こんなにも複雑でおぞましい人のありようを、あくまで今にも起こり得そうなリアリティで持って描ききった、この想像力、演出力、演技力に、心底感動しました。

あとこの結末には微かな希望が込められている。
そこが好きです。

sokenbitea