「「誠実な思い」に性差は関係ない。」雪解けのあと penさんの映画レビュー(感想・評価)
「誠実な思い」に性差は関係ない。
「白いものについて書こうと決めた。春。その時私が最初にやったのは、目録を作ることだった。
おくるみ いぶき しお ゆき こおり つき こめ なみ はくもくれん しろいとり しろくわらう はくし しろいいぬ はくひつ 寿衣
単語を一つ書きとめるたび、不思議に胸がさわいだ。この本を必ず完成させたい。これを書く時間の中で、何かを変えることができそうだと思った。傷口に塗る白い軟膏と、そこにかぶせる白いガーゼのようなものが私には必要だったのだと。」(ハン・ガン「すべての白いものたちの」より(斎藤真理子訳))
高校時代からの親友で、憧れの存在でもあったチュンの死。チュンとユエは40日を超す想像しがたい洞窟でのビバークで、驚くべきことに、一日ビスケット1個の半分でしのぎましたが、その中でチュンはイシャンへの手紙や人生に対する賛歌を数百ページにわたって書き記していたのです。(以下ネタバレあり)
映画の中で、チュンは女性の身体に生まれながら、心は男性であるトランスジェンダーであったことが示唆されています。チュンとユエとイシャンの三人の関係は、いわば恋愛感情と友情が混在する少し変わった、でも強い絆で結ばれた共同体のようなものだったのでしょう。そして死への複雑な気持ちと戦いながら、手記を「必ず完成させたい」というチュンの強い気持ちには、冒頭の小説の主人公における「傷口に塗る白い軟膏と、そこにかぶせる白い軟膏」と同じ効能があったのかもしれません。そしてそれはまた映画作品として世に送り出したいというイオシャンの強い気持ちとも重なっています。彼らが憧れたヒマラヤの山嶺は、全てを癒やすような、厳しくも美しい白銀に覆われていたのも偶然ではないように思いました。
「もしわたしとユエが死んでしまっても、あまり悲しまないで。あなたがすべきことは、人を愛すること。だから愛して。約束してくれる?」チュンのイシャンへの最後の一言が、胸を打ちます。ありがとう。また大切な1本に出会えました。(三人の好きだった「グランブルー」私も大好きです(^_^))
