「ヲタクにビジネスは難しい」MR. JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男 おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
ヲタクにビジネスは難しい
冒頭、白樺の雪景色から始まる映像が幻想的で、北欧かどこかの国かと思っていたら新潟だったという衝撃。
この映画、日本のありふれた日常風景を、無駄に手間かけてテクニカルに撮影している場面がちらほら出てくる。
「レッド・ツェッペリンのギタリスト・ジミー・ペイジの真似をする日本人・ジミー桜井という人のドキュメンタリー」と耳にしていたので、ものまね芸人みたいなものを想像して鑑賞したら、予想を遥かに超えた狂人だった。
ロックバンドのギタリストの姿をしたレッド・ツェッペリンが好きすぎるオタク。
見た目や雰囲気は「THE ALFEE」の高見沢俊彦で、昼は着物のセールスマンらしいが、働いている姿が想像できない。
衣装や楽器のこだわりが異常。
過去のライブ映像を観ながら、その時ジミー・ペイジが身につけていた衣装の再現を試みるわけだが、「袖口の数ミリのずれ」や「背中の刺繍に使われている糸のわずかな色の違い」まで、異常ともいえるこだわり。
門外漢には違いがさっぱりわからなかった。
何度も何度もやり直しをさせられる仕立て屋が不憫に感じた。
序盤はジミー桜井が日本で細々と地道に活動する様子が描かれていくが、細かい「こだわり」の話が続くので、正直観ていて眠気が襲ってきた。
中盤にものまね番組でいうところの「ご本人登場」の場面があり、そこら辺から映画の流れが変わってきたように感じて面白くなってきた。
後半は舞台がアメリカに移り、客の前でレッド・ツェッペリンが過去に行ったライブの完全再現に挑戦するジミー桜井。
音楽ライブに行ったことがないので想像になるが、ライブ本番でミュージシャンがアドリブを加えた場合、それがファンにはその日だけの特別な体験として好意的に受け入れてもらえると思うのだが、「完全再現」を目指すジミー桜井はアドリブを禁止。
バンドメンバーがちょっとでもアドリブを加えようものなら、ジミー桜井が鬼姑ばりに細かくネチネチ指摘。
練習風景が「音楽ライブ」というより「演劇」に近いと思った。
実際に行われたレッド・ツェッペリンのライブと全く同じ曲構成で演奏したいジミー桜井に対し、他のメンバーから「客に人気のある曲だけにすべき」と要求されるも、ジミー桜井はこれを断固拒否。
この感じ、最近どこかで観たと思ったら、正月に観た『グランメゾン・パリ』のキムタクっぽい。
キムタクみたいに怒鳴ったりはしないけど。
ジミー桜井の、他人の意見を全く取り入れようとしないこだわりの強さに崇高さを感じつつも、オタクの悪い癖が出てるとも思った。
「作り手の作りたいものを優先するか、それともビジネスのために客が喜びそうなものを優先するか」の問いは、世界中のどこの職場にもありそうな普遍的な問いに感じた。
ジミー桜井がジミー・ペイジの演奏はライブごとに微妙に変化していることを説明した後、全てのライブバージョンの演奏を実演。
模倣の天才だと思った。
でも生活はギリギリ。
例えば「バットでボールを上手く打ち返す」という才能が、野球がビジネスになる前はたいした価値を持っていなかったのが今なら億万長者になれるように、ジミー桜井の才能も時代が違えば莫大な富を生み出していたのでは?と思った。