「映画としては派手なシーンを作りづらい内容でもあり、登場人物が多いことから人間ドラマとして構築するのには難しかったのだろうと思いました。」ブラック・ショーマン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
映画としては派手なシーンを作りづらい内容でもあり、登場人物が多いことから人間ドラマとして構築するのには難しかったのだろうと思いました。
超一流マジシャンが殺人事件の謎に挑む姿を描いた、東野圭吾の人気ミステリー小説「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」を、福山雅治主演、有村架純共演で映画化。
●ストーリー
結婚式を2か月後に控える神尾真世(有村架純)のもとに、元中学校教師の父・英一(仲村トオル)が殺害されたという悲報が届きます。突然の訃報を受け、真世は実家のある町に戻ります。その町はコロナウイルスの蔓延以降、観光客も遠のき、活気を失ってしまっていました。それでも地元では寂れた観光地を活気づけようとする計画が進んでいたのです。そんな街で長年国語教師として教鞭を執り続けてきた栄一は、多くの教え子から慕われてきた存在でした。
真世は町で起こったこの事件の真相を知りたいと願いますが、警察は捜査情報を一切教えようとしません。そこに叔父の武史(福山雅治)が現れます。武史はかつてラスベガスで名を馳せた元マジシャンでした。「警察より先に真相を突き止める」と宣言する武史は、マジックで培った手先の器用さとメンタリスト級の観察眼、巧みな誘導尋問で警察を出し抜き、卓越した洞察力で真世とともに父の死の真実に迫っていくのです。
●解説
本作の舞台は原作の副題にもある“名もなき町”です。寂れた観光地である地元の唯一の希望となっていたのが、漫画『幻脳げんのうラビリンス』(幻ラビ)を大ヒットさせた漫画家の釘宮克樹(成田凌)の存在です。地元出身で真世と同級生でした。このことが本作の重要な伏線になっています。
そして今回の主演福山雅治の役どころは、“つかみどころのない元マジシャン”。10年前にはアメリカで活躍するマジシャンでしたが、今では恵比寿でバー“トラップハンド”を経営している設定です。
「ガリレオ」シリーズの物理学者・湯川学は、仮説・実験・実証を大事にして、そこから推理を緻密に組み立てていくタイプでした。そこから一転して、本作の主人公である神尾武史は金にうるさく、嘘とハッタリを使いこなすというブラックなキャラクターに仕立てられています。相手の心理を巧みに読み取り、ブラフと意図的な嘘で登場人物たちを揺さぶることで、一人のアリバイを崩し、動機を明かすために他の人々の秘密を暴いて真相に近づいていくのです。
真世の同級生7人が集められた教室で、「誰が神尾英一を殺したのか」という問いの答えに近づくために、武史はわざと誤った推理を展開するのです。こうして真世の同級生だった面々を中心に容疑者が絞られていくのでした。真相への辿り着き方が「ガリレオ」湯川学とはまるで違うのです。そんな武史の姿は、まさにダークヒーローといっていいでしょう。
本作で印象的なのは、真世の中学時代のクラスメートだった柏木広大の存在でしょう。クラスのまさにジャイアン的な存在として釘宮らクラスの面々を従えていたのです。これを演じているのが木村昴。実は彼はアニメ『ドラえもん』のジャイアン役の声優として知られています。原作小説では真世のクラスメートたちは『ドラえもん』の登場人物に重ね合わせられることに触れられています。そのほか釘宮克樹はのび太であり、九重梨々香がしずか、牧原悟がスネ夫、杉下快斗が出木杉であると。そしてドラえもんは誰かというとのび太にひみつの道具/アイデアノートを与えた津久見直也だということなんです。
本作で特筆すべき点は、福山がすべてのマジックをCGや特撮を使わず自ら練習して演じきっていること。撮影現場ではマジックをアクションシーンのように緻密に構築し、刑事役の生瀬勝久との掛け合いも殺陣のように調整されたそうです。マジック監修のKiLaは福山のマジックを「マジシャンの枠を超えている」と評価し、リアリティを追求した映像表現が実現していました。
●感想
本作は自然豊かな村を舞台に豪華キャストと共に推理を進めていく作品で、「コンフィデンスマンJP」シリーズを手がけた田中亮監督らしいカラフルな演出が特徴的です。物語の舞台となる「名もなき町」は岐阜県中津川市や郡上市、愛知県豊田市がロケ地とされた。紅葉を象徴的に取り入れながら、郡上八幡のレトロな街並みや苗木城跡の眺望、香嵐渓の自然などが活用されています。
ただ前提に異様に彩度が上げられていて、紅葉も不自然に赤く、この世の風景とはいえないくら異様に感じられました。
主人公のキャラクターもケレン味だっぷりです。特に刑事とのやりとりなどでマジックを駆使するシーンでは、ことさら武史の繰り出すマジックのテクニックが強調されていて観客をとにかくびっくりさせようとする演出が目立ちました。その反面これまでの『ガリレオ』シリーズではウリになっていた人間ドラマは希薄になっています。
やはり犯人の動機が、そんなことで父を殺してしまったのか!と武史も真世もびっくりの取るに足らない理由なのです。映画としては派手なシーンを作りづらい内容でもあり、登場人物が多いことから人間ドラマとして構築するのには難しかったのだろうと思いました。
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