劇場公開日 2025年8月29日

「構想と設定のスケール感に反し、小ぢんまりした恋愛奇譚。ポストクレジットシーンあり」九龍ジェネリックロマンス 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5構想と設定のスケール感に反し、小ぢんまりした恋愛奇譚。ポストクレジットシーンあり

2025年8月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

池田千尋監督の前作「君は放課後インソムニア」がよかったので、最新作「九龍ジェネリックロマンス」も期待して鑑賞したが、さてどうだったか。

原作は眉月じゅんによる連載中の同名コミックで、単行本は現在11巻。これだけのボリュームの話を2時間弱にまとめるのだから、内容的に相当割愛、凝縮を余儀なくされたものと思われる。

本作において「ジェネリック」という言葉は、本来の「一般的な、包括的な」という語義ではなく、ジェネリック医薬品に日本の一般消費者が抱くイメージ、つまり「特許を取得したブランド品(本物)と成分は同じだが安価な普及品(コピー)」と近いようだ。1990年代に取り壊された香港の九龍城砦にそっくりで、成立過程が謎につつまれた“ジェネリック九龍”が物語の舞台。上空に浮かぶ八面体の物体“ジェネリックテラ”がこの九龍をコピーしたような街の出現に関係しているようだが。

不動産屋勤務の令子(吉岡里帆)は、ほぼ変化のない日々を繰り返しているが、過去の記憶がない。令子の先輩・工藤(水上恒司)は、令子の過去について何か知っているようだ。2人の過去が徐々に明らかになるなか、ジェネリックテラ計画に関わる蛇沼(竜星涼)が、ジェネリック九龍出現の謎と令子の存在に関心を持ち接近してくる。

舞台や主要人物の設定に関する構想がなかなか壮大で興味をそそられるが、話が進むうち、基本軸は意外に小ぢんまりした恋愛奇譚なのかなという気がしてくる。展開次第では、「ブレードランナー」のような自意識・記憶・アイデンティティーをめぐる哲学的な問いかけになったり、「エターナル・サンシャイン」のようにSF設定をからめて記憶と恋愛の関係をエモーショナルに謳いあげたりするような、構想のスケール感とテーマの奥深さが両立する娯楽作となり得たのではないかと、もったいない感じがした。

おそらく物語要素を割愛したせいで、令子、工藤、蛇沼の3人以外はストーリーに有機的にからむというより単なる記号的な存在にとどまっているのも、物足りなさの一因。山中崇、嶋田久作、サヘル・ローズ、梅澤美波ら個性的な共演陣を活かしきれていない。

池田監督が過去に携わった長編映画やテレビドラマをざっと見渡すと、リアルな設定の作品が大部分で、SFやファンタジーの要素が強いフィクションは今回が初挑戦のようだ。脚本の問題もあるかもしれないが、「九龍ジェネリックロマンス」との相性はよくなかったのかもしれない。

そうそう、エンドロールの途中からクレジットに並行して画面左半分で追加シーンが流れ、監督の名前が出た後に画面全体でポストクレジットシーンが約4分、かなりたっぷりめに流れる。これを観ると観ないとでは印象もずいぶん違うはず。暗転してキャスト名が流れ始めてもどうか席を立たず、最後まで見届けていただきたい。

高森 郁哉
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