「「Welcome Back」が誰の言葉かを考えて観ると、意外な一面が見えてくるように思います」Welcome Back Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
「Welcome Back」が誰の言葉かを考えて観ると、意外な一面が見えてくるように思います
2025.1.16 アップリンク京都
2025年の日本映画(119分、G)
天才肌のボクサーの挫折と、その信奉者の復讐を描いたボクシング映画
監督は川島直人
脚本は川島直人&敦賀零
物語は、北千住の交番にて、警官(川島潤哉)と話すテル(吉村界人)が描かれて始まる
ベン(三河悠河)が姿を消し、その行方を追っていたテルは、2人の関係のことを話し始める
そして、その矢先にテルの携帯が鳴った
映画は、その10ヶ月前から順を追っていく流れになっていて、東日本の代表を決める決勝戦に臨むテルが描かれていく
対戦相手は年上のキャリアボクサー青山(遠藤雄弥)だったが、テルはいとも簡単に相手を倒してしまう
そして、その数ヶ月後には西日本代表の北澤游馬(宮田佳典)との決勝戦が控えていた
テルはいつもと変わらぬように過ごし、計量をパスして、北澤を挑発し始めた
だが、試合は劣勢で、2ラウンドのTKO負けを喫してしまう
テルは「重傷で引退」という理由で表舞台から去るものの、彼の負けを受け入れられないベンは、あることを目標にして家を出てしまった
それは、テルの代わりに北澤を倒すというもので、彼はノープランで大阪に向けて歩き始めてしまうのである
映画は、川崎に入ったところで、元対戦相手の青山がベンを見つけるところから動き出す
会長(菅田俊)を通じて連絡を受けたテルは、青山の指定するファミレスへと向かった
ベンはテルを見て逃げ出すものの、その目的を知って、仕方なく付き合うことになった
また、その場にいた青山も巻き込まれることになったのだが、それはゲーム感覚で大阪行きを始めたものの、ベンを止めるための試合で負けてしまったからだった
映画は、復讐を誓うベンに引き摺られる2人を描き、その過程でベンが徐々に覚醒していく様子が描かれていく
テルのビデオを何度も観てきたベンは、彼の動きを真似できるようになり、そして北澤戦のビデオを見ながら、シミュレーションを重ねていく
スパーリングも素人と油断したボクサーたちを倒していく中で、実践経験を積んだベンが徐々に本物のボクサーになっていく様子が描かれる
最終的にはベンとテルが戦うことになるのだが、何を思ったのか、テルはベンとの戦いを拒むようになっていた
そして、袂を分ち、ライバルとして再会することを夢見始めるのであった
大阪でのスパーリングは「よそ見」が原因で、ベンは負けたと思っておらず、この瞬間にテルはベンのお荷物的な存在になっていた
そう言った意味において、テルは勝ち目のないベンとの勝負を降りて、ベンを超えられるように努力を重ねる決意を固めることになった
ジムからジムを渡り歩くので、ロードムビーっぽさはあまり感じられないのだが、名古屋に対する偏見(愛)は非常に感じられた
本当にそこにいる人が登場しているようで、話し言葉もすんなり入ってくる印象があった
いずれにせよ、ボクシング映画としては異端だが、試合のシーンがきちんと作り込まれているし、妙な間合いからのコミカルなシーンも面白かった
東京から大阪に行くというロードムービーで、テルが転落してから始まるというのは興味深い
物語の基本構造は「何かを得る者は失い、何も持たない者は得る」という法則があるのだが、過去譚は失う物語で、現在パートはテルもベンも得る旅になっていたと思う
問題は何を得るかというところなのだが、大阪行きを通じて、ベンは新しい居場所を見つけ、テルは自分が立つべき場所を見つけることになった
転落から始まる者の再生は応援したくなるものなので、そう言った意味でも爽快感が感じられるのではないだろうか