「変えたいのは顔ですか? 心ですか?」太陽がしょっぱい おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
変えたいのは顔ですか? 心ですか?
公開時はあまり話題にならず、行きつけの映画館でも上映がなかったため、その存在も知らなかった本作。しかし、なぜか今頃になって上映が始まりました。なんと、我が地元の豊橋が舞台で、舞台挨拶もあるということで、ちょっと興味がわいて鑑賞してきました。
ストーリーは、愛知県豊橋市の由緒ある寺で生まれ育った女子高生・河合美波が、自身の容姿にコンプレックスを抱き、かわいい友人の生活を羨みながらも、平凡な日常を送っていたある日、中学時代の同級生・花怜が整形でキラキラ女子となったことを配信動画で知り、自分も整形を決意するが、家族に猛反対され、それでも諦めきれずに奮闘する姿を描くというもの。
わりと一般的になった感があるとはいえ、整形手術への抵抗はまだまだ根強いものがあるのではないでしょうか。まして、豊橋のような田舎で、由緒ある寺の娘ともなれば、なおさらでしょう。それでも、外見の美しさに憧れる気持ちは、性別や年齢を問わず共感します。
そんな娘の心中を察して、少しずつ理解を示す父親がいい味を出しています。婿養子という立場、自分の遺伝子、愛する娘への親心などを感じさせ、祖母や母と一線を画した存在として描かれているのがいい感じです。また、襖絵職人の女性との交流を経て、互いに一歩踏み出す勇気を得たように感じられたのも悪くないです。襖に描かれた二匹の龍は、大きく飛躍しようとする二人の姿に重なります。
その一方で、美波が土壇場で整形手術を思いとどまった理由ははっきりしません。憧れの二重まぶたを手に入れることがゴールではなく、これが美容整形地獄の始まりだと感じたのでしょうか。そして、自分こそが最もルッキズムにとらわれていたのだと気づいたのでしょうか。美波の中で変わったのは、整形による顔ではなく、成長による心だったのかもしれません。
自分の生き方は、思いを声に出して相手と向き合い、理解し合うことで、少しずつ変えていけるのではないかと思います。自分の考えを一方的に押し付けたり、逆に腫れ物に触るように距離をおいたりしていた家族が、美波の悩みをきっかけに、なんだか少しだけわかり合えたのではないかと思います。
自分の生き方は自分で決める!人の決めた美の基準、親の決めた将来、そこに自分を無理にはめなくていいんだ! 一人の女子高生の等身大の悩みを、家族を巻き込んでコミカルに描く中で、そんなメッセージを受け取った気がします。
主演は重松りささんで、終始不機嫌そうな美波を好演しています。脇を固めるのは、金野美穂さん、赤間麻里子さん、野村たかしさん、小田原さちさん、平美乃理さん、小浜桃奈さんら。
今回は、主演の重松りささんが、上映前はスクリーン入口でお出迎え、上映後は内田英治プロデューサー、西川達郎監督と共に舞台挨拶、さらにはサイン会、写真撮影まで行ってくださり、感謝感激です。演技力もさることながら、女優としての強い思い、作品への情熱、スタッフや観客への思いやりなどが感じられ、すっかりファンになってしまいました。決して、作中の美波と同一人物とは思えないかわいらしさに心を射抜かれたからではありません!