「できるだけ多くの人に観てほしい」ノー・アザー・ランド 故郷は他にない Katkatさんの映画レビュー(感想・評価)
できるだけ多くの人に観てほしい
できるだけ多くの人に観てほしい映画。パレスチナとイスラエルの“たった今”。
監督は若干22歳、それでもすでに10年以上の撮影と発信の経験がある。そうか、彼等は生まれた時からすぐそばにスマホやカメラがあったんだな。
マサーフェル・ヤッタにおけるパレスチナ人の状況を実に生々しく伝えるこの映画は、今後のドキュメンタリーの可能性を感じる作品でもあった。
映像は淡々としている。 その淡々とした状況が、この映像が彼等にとって特殊な事ではない、日常なんだという事をまざまざと見せつける。
抑圧されてはいるけれど少しほのぼのした序盤、これまで、長すぎる占領下での生活に、案外住民達には「兵士は実際には撃ってはこないだろう」そんな心持ちがあったのではないだろうか。そして緊張を増す事態。タガが外れるとどうなるか分からない、そんな状況に刻々と進んでいる様が実に辛い。1年、1年と進む毎に、パレスチナ人監督である方のバーセルの疲労と焦燥が見て取れてそれも辛い。
バーセルとユバルはパレスチナ人とイスラエル人という事で、彼の地においては対等ではない。友情というより、理解と共生がテーマな気がする。 そしてイスラエル軍や入植者の横暴が高じると、イスラエル人であるという理由で取材者であるユバルに憎しみを向けてくる人も出てくる。悪循環の縮図。 序盤で父親がかつて運動家だったが今は…と言いつつ逮捕されるし(デモで運動家として復帰した、という事?)、帰って来た後、逮捕中に何があったかは語られないし、?な部分もあるのだけれど、詳細を語ると命とか色々危ないのかも、と思ったり。
こっから、映画で語られた内容ではない事。
なぜこんな事態が起こっているのか。 マサーフェル・ヤッタはヨルダン川西岸部にある集落で、ガザ同様1967年の第三次中東戦争以降イスラエルの占領下にある。実に50年以上もの間である。
元々、アラブ人(パレスチナ)とユダヤ人(イスラエル)がずっといがみ合っていた訳ではない。対立が激化したのには以下のような背景がある。(すごくざっくり)
第一次世界大戦時の英国の二枚舌外交。 オスマン帝国に対抗するため、パレスチナ(アラブ人)とイスラエル(シオニスト:ユダヤ人)それぞれに、同じ地での独立を約束した。そして第一次世界大戦が終結すると、どちらの約束も守らず、敗戦国のオスマン帝国領をイギリスとフランスで都合よく分割し「委任統治」した。 1920年代には委任統治領からイラク王国やヨルダン王国等が独立したが、国境線は元々の居住民の信仰や文化を無視し、英仏の利害で勝手に引かれ、パレスチナの地にはイスラームのスンニ派とシーア派、キリスト教徒など元々対立する人々が居住。さらにはイスラエルの建国を熱望するシオニストは戦時中の約束を論拠に英国に建国を迫り、英国は領地(パレスチナ)へのユダヤ人(イスラエル)の移住を容認したため、さらに混乱。(元々仲良くない人達がひしめき合う事態。さらに言えばパレスチナを委任統治した英国の初代責任者はユダヤ人銀行家を父に持つ熱心なシオニスト。そんなもんアラブ人よりユダヤ人贔屓しまくりである。)
しかしこの頃はまだシオニストの勢力はそこまで大きくはなかった。ちなみにシオニズムとは、ユダヤ人のための故郷をパレスチナに建国しよう!というナショナリズム運動の事ね。(これもすごくざっくり書いてるけどシオニストの中にも主義思想の違う派が存在し、色々複雑。)シオニストはユダヤ教徒をイスラエル人ととらえ、イスラエル国家建国を提唱したが、各国で成功しているユダヤ教徒(ユダヤ人)達は、独立国家に押し込められる事を良しとせず建国には消極的だった。そして第二次世界大戦で事態は変わる。ホロコーストだ。ホロコーストの難を逃れるため、ユダヤ人のパレスチナへの流入は増加し、現地アラブ人との対立が激化。そして戦後、統治者であった英国はパレスチナの混迷を国連に丸投げして撤退。
近代史上最大の迫害と人権蹂躙を受けたユダヤ人達の間で益々シオニズムが高まる。
そして1947年に国連で出された決議案が「パレスチナ分割決議」
パレスチナをアラブ人(パレスチナ)とユダヤ人(イスラエル)で2分割する、という案だが、元々の居住者は圧倒的にアラブ人の方が多かった(すごくざっくり、2/3がアラブ人で1/3がユダヤ人)のに、分割の配分はユダヤ人(イスラエル)が57%という割合であり、アラブ人には受け入れられない不公平な決議だった。
こちらの決議、アラブ系の国は反対したが欧米や日本は賛成で通ってしまう。
そう、日本も賛成しているのである。ワタクシ不勉強なため日本がなぜ賛成したのかは把握していないけれど、日本もいっちょ噛んでいるのである。
こんな不公平がまかり通った背景には、イスラエル側の巧みなロビー活動があった。つまりホロコースト被害への同情や加害に近い国には贖罪を求める…という。(もちろんお金もばらまいたことであろう)
かくしてこんな決議受け入れられないアラブ側と過激さが増すイスラエルとの間で中東戦争が勃発して現在に至るのは、昭和生まれの我々には記憶に新しい所。(中東戦争だって米英仏露が自国の都合で支援する戦争だったでしょ。)
当然、イスラエルの今日のパレスチナに対する侵略や暴力行為を国連は認めていない。
しかしイスラエルは実にしたたかに、自らに都合のいい決議は権利として受け入れ、都合の悪い勧告は全て無視している。欧米がイスラエルに肩入れするのも、各国に散らばった有力ユダヤ人の存在のためだ。つまり自国の利益にならないアラブ人より自国の利益になるユダヤ人を優遇しよう、という意思。(これもキリスト教シオニズムとか福音派とか宗教、思想的にも色々複雑な内部事情がある)ついこの間トランプさん言いましたよね、「ガザは米国が所有する」って。酷い。
そう、バーセル達が闘っている相手は、世界各国の利権により都合よく変化する「正義」でもあるのです。
家族仲良く肩を寄せ合い暮らす人々が軍や怪しげな入植者達に蹂躙される様は、どう見ても「やってはいけない事」です。
それは我々が生きる先進国主導の社会が生み出した歪と暴力。
”正義”って本当になぁ。本当に。(辛)
ちなみにパンフレット欲しかったんだけど売ってなかったな。