「100年前から続く」ノー・アザー・ランド 故郷は他にない バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
100年前から続く
イスラエルによる占領と破壊の続くパレスチナ自治区ヨルダン川西岸(イスラエルを挟んでガザの反対側)に住み、理不尽な現状を映像で世界に向けて発信するパレスチナ人ジャーナリストの青年と、同じくイスラエルによる占領に反対し、パレスチナ人ジャーナリスト青年と協力してヨルダン川西岸で取材し映像を発信するイスラエル人ジャーナリストの青年。2人が2023年10月までの4年間に渡り、イスラエル軍や入植者の暴力による破壊活動を命がけで記録したドキュメンタリー映画。監督は彼ら2人に加えてパレスチナ人とイスラエル人が1人ずつ、計4人となっているとのこと。
今やテレビでもしょっちゅう流れるようになったパレスチナの映像だが、そのほとんどはガザの惨状だ。一方、映画で映し出されるのはそれ以前のヨルダン川西岸の様子。イスラエル人入植者とイスラエル軍によってパレスチナ人の家屋や小学校までもがブルドーザーで破壊され、井戸がコンクリートで埋められる。住居も土地も奪われ、追い立てられていくパレスチナ人。イスラエル軍や入植者に銃で撃たれて死んだり半身不随になる者もいる。そのような理不尽で非道なイスラエル軍と入植者の行為を、2人はスマホやハンディカメラで接写して臨場感あふれる命がけの映像を撮っていく。そのようなひどいことの連続がパレスチナの日常であり、イスラエル建国と数度の中東戦争以来数十年、いや建国以前からユダヤ人の移住はあったんだから100年近くに渡って続いてきたとも言える。もっとも迫害が激しくなったのは60年代から80年代らしいんで、そこからは40年から60年でやっぱり数十年だ。思えば90年代にはPLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相の間で和平の動きがあり、ほのかに希望の見えた時期もあったが、今となっては遥か夢の彼方となってしまった。それにしてもパレスチナ自治区ヨルダン川西岸でのイスラエル軍およびイスラエル人入植者の行為を見ていると、満洲国における関東軍と満洲開拓移民もおそらくはこうだったんだろうなあと連想させられた。そういう意味では日本人にとっても決して他人事ではないと思わされる。
そして、この映画で意外にもそれ以上に印象深いのは、そのような過酷な映像の合間に映し出される2人の青年の会話と交流のシーンだ。共に撮影を続ける2人が語り合うパレスチナとイスラエルの未来についての対話や、2人の若者の間に生まれる友情が静かに胸を打つ。パレスチナとかイスラエルとかではなく同年代の若者の、1人の人間と1人の人間の関係こそが未来を形作っていくのではないか? そういうほのかな希望が宿る。そんな映画でした。
撮影は2023年10月で終わったことが示されるが、エピローグとしてガザとイスラエルの紛争が再び勃発したこと、ヨルダン川西岸でも事態はますますひどくなっていることが触れられる。この映画のパレスチナ人監督の1人がイスラエル軍に拘束されたというニュースが今年流れたことも記憶に新しい(後に解放)。映画の中でパレスチナ人ジャーナリストの青年がイスラエル人ジャーナリストの青年に「焦りすぎだ。数十年の問題が1日で解決はしない」と言うシーンがあるが、解決にはまだ多くの歳月が必要なのかもしれない。