劇場公開日 2025年2月21日

「不法入植という「絶望」の実態」ノー・アザー・ランド 故郷は他にない ブログ「地政学への知性」さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0不法入植という「絶望」の実態

2025年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

 本作は、中東の地で続くパレスチナ問題を映し出したドキュメンタリーである。ユダヤ人とパレスチナ人が共同で制作し、ユダヤ人の中にもパレスチナ人への仕打ちに憤る人々がいることがわかる。映像は淡々と事実を映し出し、視聴者に直接的な説明を与えず、感じ取ることを求めている。
◇土地収用の実態
 ヨルダン川西岸における入植地の接収は国連決議に反し、国際法にも違反している。正式な国家として成立していない状況を利用し、パレスチナ人の土地が奪われ続けている。映画では、住民の抵抗に対する発砲、住居の破壊、井戸の封鎖、夜間の家宅捜索など、数々の暴挙が映し出される。
◇ユダヤ人ジャーナリストとパレスチナ人
 パレスチナ人コミュニティに溶け込み、事実を伝え続けるユダヤ人ジャーナリストの存在が印象的である。彼は軍や入植者の行動に立ち向かいながらも、パレスチナ人と友情を築いていく。彼らの関係は、映画の中で唯一希望を感じさせる瞬間である。
◇日常の抑圧
 ガザ地区のみならず、西岸地区においても、パレスチナ人の日常は制限されている。経済活動や移動の自由が奪われ、監視と圧力が続く。入植地の拡大により、土地を失った人々が強制的に移住させられる現実も描かれている。
◇移民政策と入植者
 中東の地では、移民の受け入れが積極的に行われている。近年のロシア・ウクライナからの移民増加により、さらに多くの土地が奪われている現実がある。土地を追われるパレスチナ人の苦悩が、この映画を通じて浮き彫りになる。
◇長期化する闘争は子孫が継承
 パレスチナ人は、世代を超えて土地を守るための闘争を続けている。短期的な抵抗が無力であっても、彼らは長期戦を覚悟している。怒りと悲しみを抱えながらも、土地への愛着を胸に、未来への希望をつなぎ続けている。
 本作は、単なる過去の記録ではなく、今もなお続く現実を映し出している。パレスチナ人の声に耳を傾け、抑圧の歴史を記憶し続けることが、我々に求められているのかもしれない。

ブログ「地政学への知性」