劇場公開日 2024年12月13日

「クライマックスのあの二人の表情が絶品な一作」お坊さまと鉄砲 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0クライマックスのあの二人の表情が絶品な一作

2024年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

法衣をまとった僧侶が鉄砲を肩に担いでいるという、ほんわかした雰囲気だけどどこか不思議な組み合わせが目を引く本作のポスター。このアートワークから連想できるように、物語は山に籠って修行中の老僧が弟子に二丁の銃を持ってくるように命じるところから始まります。

舞台は「民主制」への移行を控えたブータン。敬虔な信仰心と国王への敬慕に基づいて伝統的な国家体制を維持してきたブータンが平穏に民主制に移行できるか、という国家的挑戦の真っただ中にあります。この大きな変化に誰もが戸惑い、高揚してる状況で、なぜ銃という物騒なものが必要なのか。骨董品として高価な銃の入手をもくろむ外国人も加わって、ちょっとした騒動が巻き起こります。

老僧が銃を必要とした理由が明らかになった時の、腑に落ちた感もなかなか良かったのですが、「民主化」、「普通選挙」というものがどういうものなのかを、ブータンの人々のふるまいから描いている点も興味深い作品でした。

政府職員として選挙というものを知らない住民に啓蒙活動をしていく者が実は、選挙の意味を十分に理解できておらず、単純な勝ち負けにこだわっていたり、政治といった世俗的な動向から距離を置いているように見える修行僧が実は……といったちょっとしたひっくり返しを物語に実に巧みに織り込んでいます。

この、我こそ民主化の担い手、という登場人物に対するちょっと皮肉な見方は、そのまま「民主化の先輩」である国々の人々に対する、「ほんとに選挙の意味わかってる?」という問いかけにもなっていて、穏やかなブータンの風景を眺めつつお気楽に物語を楽しめる作りのようで、実は割と大事な問題に目を開かせてくれる作品でもあります。

いろいろ見どころの多い作品ですが、クライマックスのあの二人の表情、そしてそのあとのふるまいにはなかなか笑わせてくれます。案外いい奴らじゃん。

yui