「【"自覚無き、両親による治療無き監禁”今作は、精神疾患を患った娘を、医者である父と研究者の母が家に閉じこめた20年を記録した、恐ろしきも哀しき鬱ドキュメンタリーである。】」どうすればよかったか? NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【"自覚無き、両親による治療無き監禁”今作は、精神疾患を患った娘を、医者である父と研究者の母が家に閉じこめた20年を記録した、恐ろしきも哀しき鬱ドキュメンタリーである。】
ー ご存じの通り、日本には”恥”という文化がある。武士階級から始まった文化だが、徐々に庶民まで広まって行った。
故に、古来、日本では精神疾患に罹った者を地下牢などに隠したりしてきた。その流れで1900年に「精神病者監護法」が施行された。”看護”ではなく、”監護”である。その後、この法律は名を変えて来たが、1965年まで続いていた。
無くなった主な理由は、人権と、精神病院の普及である。
だが、今作では恐ろしい事に現代の"自覚無き、両親による治療無き監禁”が、ドキュメンタリー映画として記録されているのである。ー
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作は、ハッキリ言って恐ろしいし、哀しいし、観ていて気が滅入るし、精神状態が安定していない方は観ない方が良いのではないかと思った程、重い作品である。
・自分に対し面倒見がよく優秀だった姉が、医学部在籍時代に精神状態がおかしく成る。だが、医者である父と、研究者の母は、その事実を認めずに20年近くが経過する。今作の監督であり、弟でもある藤野は、映像制作を学び、自宅に頻繁に帰り、姉と両親の姿を映し続ける。そして、両親に今の状態はオカシイと説得し続けるのである。
・だが、両親、特に母親は発症時に精神病院に行き、問題ないと言われたと真面目な顔で言い続けるのである。そして、”姉の様子がオカシクなったのは変な奴が来るからだ”。”とか訳の分からない事を延々とカメラに向かって話す。観ていて滅入る。この人は、自覚無き治療無き監禁を20年以上して来たのだと思うと、恐ろしくなる。
母が、認知症気味というナレーションも入るが、常軌を逸している。
・父親も、強くは反駁しないが、娘の状態を観ても医者に連れて行こうとはしないのである。
・そして、母が亡くなり、ステージ4の癌に侵された娘は、漸く治療に行き精神的に落ち着いた様子の映像が流される。故に哀しいのである。何故に、発症時に心療内科医に連れて行かなかったのかと思うからである。
<そして、還暦を迎えた姉は亡くなる。藤野監督は残った父にこの映画の制作の許可を得る際に父の考えを聞くのである。
その時に、初めて老いて腰の曲がった父は、”妻に引きずられて、恥の概念があったために心療内科に連れて行かなかった事”を認めるのである。
今作で描かれたような家庭は、まだあるのだろうか・・。心療内科に通院している人の数が激増しているストレスフルな、現在の日本において。
今作は、精神疾患を患った娘を、医者である父と研究者の母が家に閉じこめた20年を記録した、恐ろしくも哀しき鬱ドキュメンタリーなのである。>
現在なら、両親は明らかに医療ネグレクトという障害者虐待を行った犯罪者であり、この映画は長年に渡る一つの重大な犯罪事件の記録であると言えるのではないでしょうか。