「バイアスの恐ろしさ」どうすればよかったか? ヒカリさんの映画レビュー(感想・評価)
バイアスの恐ろしさ
統合失調症ではないが、発達障害+知的障害、認知症、双極性障害の身内がいるので、全編共感しながら鑑賞した。以下、感じたことを整理したい。
●専門的知識があろうと、バイアスからは逃れられない
「正常である」という認識を拡大させすぎる正常性バイアス、医師(この場合は両親も含む)の持つ知識や権威性を絶対視する権威性バイアスによって、「娘は治療など必要ない」とする両親に悲しみを感じた。両親が最終的に互いに責任をなすりつけあう姿も生々しい。医師として、親としてのプライドが目を曇らせている。
ちなみに昨今はネットの発達で医師の権威性(患者と医者の情報非対称性)は薄らいでいるし、障害や病への理解も進んでいる。そういう時代に生きている自分からすると、お姉さんが生きた時代の流れが悪かった、という点も見逃せない。
●教育虐待、「兄弟児」、ヤングケアラー、毒親、8050問題
いずれも流行りのワードであり、本作と密接に関連している。監督には、次回作でその視点から(今度はより中立の立場で)作品を作ってほしい。
●両親は娘を愛していなかった…わけではない
家父長制的な家族において、愛情とは子どもを管理し、囲い込むこと。父親はそれを忠実に実行したにすぎないのかもしれない。
●私怨を晴らすための作品か?
そういう面もあると思ったが、それが作品の意義や質を損ねているわけではない。実の弟が記録するのだから、怒りや憎しみが湧いて当然だと思う。「憎んでいないか?」と姉に問うシーンを挟んだのは英断だ(監督自身が怒りを持って撮影していることを表明しているシーンであり、観察者として偏りがあることを示している分誠実だと感じる)。
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