「どうすればよかったか?」どうすればよかったか? ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
どうすればよかったか?
人生にタラレバはないというが、どうすればよかったかと後になって悔やんだことがない人はいないだろう。ましてや社会への船出を迎える時期にどういう選択をしたかはその後のその人の人生に大きな影響を及ぼす。それが本人ではなく家族の意思で明らかに異常な判断がなされたとすれば、死んだ人は浮かばれないのではないか、監督がそう問いかける映画である。
医学系の研究者である両親の影響から、4浪の末、医学部に進学した監督の姉は、大学4年の解剖実習に失敗したことで留年した。その頃から少しずつ様子がおかしくなっていき、1983年に統合失調症の最初の発作が起きた。監督は、1992年、実家を出る直前におかしくなった姉の様子を録音し、2001年から、実家に帰省するたびにビデオを回し始めた。発症してから25年後の2008年、母に認知症の症状が見られた。監督は医師に相談したところ、「姉はすぐに入院させ、父親が自宅で母の面倒を診るのがよい」というアドバイスをもらった。それを父親に相談したら、姉の入院を受け入れた。姉は入院期間中、合う薬が見つかり、3ヶ月で退院できた。退院後は、料理をしたり、弟が撮影しているカメラにピースをしたりとそれまでとは別人と言っていいぐらいに変化した。
監督はこう振り返る。「最初の急性症状が出たときに、僕は30分以内に救急車を呼ぶという正しい判断ができていたので、姉について後悔していることはない。ただ、間違っていたのは、両親の説得に25年かかったということ。どう考えても長すぎるし、姉に対して申し訳ない。これを失敗と言わずして何と呼ぶのか。だから後悔があるとしたら、もっと早く両親を説得すべきだったということ。」
統合失調症とは、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることで、考えや気持ちがまとまりづらくなる精神疾患だ。幻覚や妄想などの陽性症状、意欲の低下や感情表現の減少などの陰性症状、認知機能障害などの症状が現れる。早期発見と早期治療が重要で、薬物療法や精神療法、認知リハビリテーションなどの治療によって回復することができる。原因は現在でもはっきり解明されていないが、遺伝子も関与しているといわれている。本人がなにかをしたら発症するわけではなく、親の育て方や遺伝のために起こるわけでもない。
監督メッセージは無念さが滲み出る。
「姉はたくさんの才能を持って生まれましたが、発症してからは、それを十分に発揮することなく、ほとんど独りで生きていました。
我が家の25年は統合失調症の対応の失敗例です。
どうすればよかったか?
このタイトルは私への問い、両親への思い、そして観客に考えてほしい問いです。」