「貴樹に通電させた発明」秒速5センチメートル こんさんの映画レビュー(感想・評価)
貴樹に通電させた発明
アニメ版では、貴樹の傷は癒えることなく、傷の中で生きるしかない絶望的な終わり方をして、見るものをまた、傷の中で生きることを強いた。だからこそ、このアニメを何度も見た。自分の中の傷を肯定し、自分もまた傷の中で生きることを続けた。
今回の実写版では、貴樹に別の生き方を聞かせることができたと思っている。その生き方を聞かせたのは、美鳥だった。「大事なことはちゃんと言わなきゃダメ」というようなことを言った。そこで初めて貴樹は過去の傷を相対化するきっかけを得た。あのときの約束、果たされない約束。それは傷となって、貴樹は一歩もそこから出られなくなっていたのだが、ようやくその傷に向き合えるかもしれない。あのとき、あの店に明里が来ていれば、それはうやむやになり、また、明里に別の人生がすでに始まっていることを知り、貴樹はまた、別の傷を負ったことだろう。ともあれ、貴樹は通電を始めていた。しかし、傷の中にも戻り、岩舟の桜の前へ行った。傷は傷でしかない。一方の明里は傷と共に生きていた。それが日常だとも言った。あのとき、こんなことがあったのよねと語れる、そして、貴樹はきっと元気に生きていると信じていた。だから、生きてくれた。彼女だって辛かったはずだ。でも、彼女はお互いの人生を信じた。宇宙科学館の館長に、ようやく、自分の傷について、話すことができた貴樹は、その結果として、彼が望んでいた、彼女の語りを聞くことになる。館長の口からではあるが。長々と書いて、何が言いたいかというと、宮崎あおい演じる美鳥の「大事なことはちゃんと言わなきゃだめ」という言葉が美しいということだ。貴樹へのこの通電により、貴樹の心の中の回路が動き始めたから。だから、金子あさみにも言葉を送ることができた。彼女は「遅すぎた」とは言ったが、彼女にも通電をした。こうして自分の言葉で傷を語ることは、小さな世界を変えていく。アニメにはなかった世界を描けたこの映画は素晴らしい。アニメへの返歌となったと思う。
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