「男の美学」秒速5センチメートル Dickさんの映画レビュー(感想・評価)
男の美学
❶相性:上。
❷時代・舞台(登場する文書やテロップや会話等の日付から):
2008年・東京の現在から幕が開き、1991年・東京、1993年・種子島、1993年・岩船とフィードバックがあり、2008年・東京に戻り、翌2009年・岩船と東京で幕を閉じる18年間の物語。
❸主な登場人物
①遠野貴樹(たかき)(松村北斗/29歳。小学・中学生:上田悠斗/11歳。高校生:青木柚/23歳):1991年の春。東京の小学5年生・貴樹は、同じクラスに転校してきた明里と出会う。親の転勤で転校が多かった2人は心を通わせていくが、卒業と同時に、明里は栃木・岩船に引っ越してしまう。離れてからも文通を重ねていた2人だが、今度は貴樹が種子島へ引っ越す。中学1年生の冬。栃木・岩舟で再会した2人は、雪の中に立つ一本の桜の木の下で、16年後の2009年3月26日〔小惑星1991EV(架空)が地球に衝突するかも知れない日〕に、この場で再会する約束をしてキスをする。その後、貴樹は鹿児島で高校時代を過ごし、東京の大学に進学。卒業後は東京のソフトウェア開発会社に勤め、2008年の現在に至る。同じ職場の水野理紗と交際中だったが、フラれる。貴樹は迷いがあり会社を辞め、元上司の紹介で科学館のプログラマーとなる。
②篠原明里(あかり)(高畑充希/33歳。小学・中学生:白山乃愛/12歳。):東京の小学校に転校して貴樹と出会う。現在は新宿の紀伊國屋書店に勤める書店員。恋人がいる。輿水美鳥と交流がある。
③種子島の高校関係
ⓐ澄田花苗(かなえ)(森七菜、23歳):貴樹に想いを寄せる種子島の高校の同級生。サーフィンが趣味。
ⓑ輿水美鳥(みどり)(宮崎あおい、39歳):花苗の姉。貴樹が通う高校の教師。明里が働く新宿紀伊國屋書店でワークショップを行っている。
ⓒ砂坂翔子(白本彩奈、22歳):花苗の親友。
④新宿・紀伊國屋書店関係
ⓐ柴田治(又吉直樹、44歳):店長。
ⓑ田村四季子(堀内敬子、53歳):先輩店員。
ⓒ大橋純透(佐藤緋美、25歳):アルバイト店員。
⑤ソフトウェア開発会社関係
ⓐ水野理紗(木竜麻生、30歳):貴樹の同僚。貴樹と交際している。
ⓑ窪田邦彦(岡部たかし、52歳):貴樹の上司。会社を辞めた貴樹に、大学時代の恩人が館長を務めている科学館の仕事を紹介する。
ⓒ金子あさみ(中田青渚、24歳):貴樹の同僚。
ⓓ戸田宗次郎(田村健太郎、38歳):貴樹の同僚。
ⓔ酒井直(戸塚純貴、32歳):貴樹の同僚。
ⓕ大野泰士(蓮見翔、27歳):貴樹の同僚。
⑥小川龍一(吉岡秀隆、54歳):科学館の館長。窪田邦彦の大学の先輩。貴樹が仕事で関わる。明里も本を届けに行く。小川館長は貴樹と明里の相談相手になり、2人の気持ちを理解するが、仲を取り持つことはしない。
❻考察
①監督の奥山由之は慶應・法学部政治学科出身だが、学生時代から映画と写真に興味を持ち、高校時代に撮った自主映画が第2回全国高校生映画コンクールでグランプリを受賞している。写真でも受賞がある。映画一家である。父親:奥山融(松竹元社長)、兄:奥山和由(映画プロデューサー)、弟:奥山大史(映画監督)(出典:Wikipedia)。
②本作(以下Ⓑと言う)は、新海誠が33歳でリリースしたアニメ『秒速5センチメートル(2007)』(以下Ⓐと言う)の実写版で、監督の奥山由之も同じ33歳。
③物語の基幹はⒶもⒷもほぼ同じだが、ベースとなったⒶは63分であるのに対し、本作Ⓑは121分で2倍の尺となっていて、Ⓐでは描かれていないオリジナル要素も多数登場する。だから、人物象に深みがあり分かり易いと言えるが、観客自身が創造する割合が少なくなったとも言える。
④中学1年生の冬、岩舟で再会した貴樹と明里は、16年後の2009年3月26日に、もう一度会おうと約束するが、その後の2人の行動がⒷではより明確になっている。
⑤社会人の貴樹には、付き合っている女性・理紗がいるが、あと一歩が踏み出せない。その理由が明里である。貴樹は、心の中で、明里のことを大切に思っていて、今も変わらない。だから2009年の約束の日に、貴樹が岩舟に行くが、明里は来なかった。
⑥一方の明里は、過去の思い出よりも、現在の出会いを重視する。だから、今の恋人を選ぶのだ。観客がそれに気づくのが、プラネタリウムのシーン。明里が観たプラネタリウムは、貴樹がプログラムしたもので貴樹が解説していた。明里はそのことを事後のチラシで知った。会おうとすれば可能だったがそうしなかった。その時点で明里にとって貴樹は過去の人だったのだ。
⑦現在の貴樹と明里は、紀伊國屋書店や科学館等で、何度もすれ違う。観客には分かっても本人同士は気づかない。観客は2人が結ばれることを期待するが、肩透かしを食らう。
⑧ラストの踏切のシーンでは、貴樹は明里に気づくのに対し、明里は貴樹に気づかない。或いは、気づいたかも知れないが無視する。
⑨貴樹の気持ちに共感する。それは、自分よりも相手の幸せを願う「男のロマン」である。「男の美学」である。それは、幾つもの名画に描かれている通りである。
ⓐ『カサブランカ(1942米)』:リック(ハンフリー・ボガート)のイルザ(イングリッド・バーグマン)に対する思い。
ⓑ『ラ・ラ・ランド(2016米)』:セブ(ライアン・ゴズリング)のミア(エマ・ストーン)に対する思い。
ⓒ『パスト ライブス 再会(2023米・韓)』:ヘソン(ユ・テオ)のノラ(グレタ・リー)にたいする思い。
⑩明里が新たな人生を歩みだしたことで、貴樹の心も開放される。貴樹も新たな人生を始めるだろう。そう信じたい。
⑪CGとVFXを活用した実写版の映像は、アニメ版に劣らぬ美しい魅力があった。
❼まとめ
①新海誠のアニメ版と、奥山由之の実写版とは、同じ世界観でも、夫々独立した要素があり、両者とも、親しみを持って味わうことが出来た。
②実写版では、主人公貴樹の「男の美学」に共感した。
❽トリビア
①秒速5センチメートル(出典:Google AIモード、MONOist)
冒頭で示される「桜の花が舞い落ちるスピードは秒速5センチメートル」は、比喩的な表現で、正しくは下記の通り。
ⓐ風がない時:「秒速1~2メートル」。雪が落ちる速さとほぼ同じ。
ⓑ秒速1.75メートルの上昇気流があれば、秒速5センチメートルになる可能性もある。
②1991年の主な出来事(❖は本作関連)
・湾岸戦争の勃発
・ソビエト連邦の崩壊
・ピナツボ火山の大噴火
・バブル経済の崩壊
・雲仙普賢岳の噴火
❖1977年に打ち上げられた無人宇宙探査機ボイジャー1号と2号が天王星と海王星を観測して恒星空間へ旅立つ
③1993年の主な出来事(❖は本作関連)
・ニューヨーク世界貿易センター爆破テロ
・EU(欧州連合)発足
・オスロ合意:イスラエルPLO
・Jリーグ開幕
・平成の米騒動
❖種子島宇宙センターでX線天文衛星あすか打ち上げ
④1994年の主な出来事
・英仏海峡トンネルの開通
・ネルソン・マンデラ氏が南アフリカ初の黒人大統領に
・松本サリン事件
・名古屋空港で中華航空機事故、264人が死亡
・円高が加速し、戦後初めて1ドル100円を突破
⑤2008年の主な出来事
・リーマン・ショックに端を発する世界的な金融危機
・四川で大地震、死亡・行方不明8万7,000人以上
・中国製食品の信頼崩壊、餃子・粉ミルクの汚染事件
・BD(ブルーレイ・ディスク)レコーダー。
・小林誠・益川敏英・南部陽一郎の3氏がノーベル物理学賞受賞
⑥2009年の主な出来事(❖は本作関連)
・バラク・オバマ氏がアメリカ初の黒人大統領に
・クライスラー破産
・政権交代:自民党から民主党に
・新型インフルエンザの流行
・桜島が爆発的噴火
❖小惑星2009 DD45が地球に接近
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