「アニメのファンにとっては没入しづらい実写映画」秒速5センチメートル mtwbさんの映画レビュー(感想・評価)
アニメのファンにとっては没入しづらい実写映画
※ネタバレを含みます
※秒速ファンとしての個人的な意見です
【前提】
・小説は読んでいません
・高校生の頃原作アニメを見てから少なくとも5回程度は見返している程度のファンです
【全体的な感想】
総論としては、独自の解釈がかなり加えられた商業向きな実写化で、アニメのファンからするとツッコミどころ/気になるところが多く、没入しづらかった。実写映画を見ることで、「自分は原作のアニメ版がかなり好きだったのだな」と気付いた。
それなりに世間的な評判が良いようなので、広く一般に受け入れられることを目的に製作されているのだと思う。
実写映画がアニメで実現している映像美をそのまま期待するのは当然難しいとはいえ、原作ファンからすると気になってしまう点が多いと感じてしまった。ある種、アニメが持っている表現の豊かさみたいなものが高いというのを改めて実感した。
【良かったと感じたポイント】
・起用されている役者は豪華で、演技も総じてよかった。特に、松村北斗(大人の貴樹役)と白山乃愛(幼少期の明里役)の演技が良かった
【残念と感じたポイント】
・原作に対する解釈が、自分とはかなり違っていた。自分の解釈と大きく異なると感じた点は以下の2つ。どちらも、原作が持つ性質としては重要なポイントになると考えていたが、私の解釈とは大きく異なってた。
①貴樹・明里がそれぞれをどのように意識しているか
原作では、貴樹も明里も高校生以降はそこまでお互いのことを強烈には意識していないと私は理解していた。一方で本作では、両者とも大人になってもお互いのことを個人として強く意識している。
②エンディング
原作のエンディングの読後感としては、「心になんとなくしこりが残るような別れは人生の中でも誰しもあり、それをどこかで引きずってみんな生きている。貴樹は折り合いをつけられたのかつけられなかったのかわからないでも、前に向いて歩いていく」という白黒はっきりつけないようなものであった。一方、本作では明里が約束の日に約束の場所に来なかったことで、貴樹の中でも整理がついたようなエンディングになっている。
・山﨑まさよしのOne more time, One more chanceが劇中での扱いが残念。花苗の姉(宮崎あおい)が好きな曲という雑な紹介のされ方だが、原作では「山﨑まさよしのMVが秒速」と言われるほどストーリーとリンクしている利用のされ方だった。
・映像の演出や品質が高くないと感じるポイントが多かった。花苗がうまく波に乗れるところで小さな波にしか乗れていなかったり、ロケットが運ばれているシーンのVFXの安っぽさも感じた。また、岩舟駅で貴樹と明里が別れるシーンで、貴樹がドアが閉まる音や鳥の声で明里の言っていることが聞こえなかったという描写があるが、貴樹視点で画面が白くなる演出などが安っぽく感じた。
・原作ファンからすると重要と思われる描写が無くなっていることが多かった。例えば、貴樹が大雪の中で電車で岩舟駅にいくシーンの中で、原作では電車の扉の脇に立っている際に、おじさんに扉を閉めるボタンを押されるシーンがあったと思う。あれは、都会に住んでいる貴樹が田舎の電車に慣れておらず、中学生の貴樹にとっては栃木まで会いに行くのが大変な冒険だったというのがわかる要素だったと理解しているが、そうした描写はなかった。
・貴樹が高校時代に喫煙をしている設定の必要性がよくわからなかった。全体的に、貴樹が原作よりも素行が悪いような台本になっているように感じた。原作の貴樹はとにかくまっすぐ真面目、だけど、他人に興味がないという印象だったが、本作では少し廃れているような印象を受けた。
・ストーリー上、花苗の姉(宮崎あおい)がどういう意味をもって存在していたのかがよくわからなかった。貴樹と明里のすれ違いの演出のためなのだろうが、それであるなら、プラネタリウムの館長がいれば事足りている。そもそも、花苗と明里が姉を通じてつながってしまっているのは、どこか違和感があった。
・明里が30歳になるまで本屋のアルバイトをしているという設定にも違和感を感じた。原作から伺える明里は、もっと成熟して独立した大人であるように描写をされていたように思い、それが尚更仕事をやめた貴樹との対比を強調していたと思う。本作での明里からは、そのような印象を受けなかった。
【その他印象に残っている点】
・水野さん役、花苗役の役者の容姿が淡麗すぎて、本来の映画から感じていた印象と違っているように感じた。(もっと、それぞれの性格や状況に合わせた配役があっても良かったとは思う。役者の演技は良かった)
・幼少期の明里と貴樹の描写中の中で、役者の年齢の差なのかどうしても明里のほうが大人っぽいと感じてしまい、原作中ではふたりの「精神的な成熟さ」が共通項としてあったように描写されていたと記憶しているが、二人で一緒にいるとなんか楽しいといった点で双方惹かれるような描写になっていた。
・貴樹の上司が理解がありすぎる、いい人すぎる。
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