「あなたは今、幸せですか…?」秒速5センチメートル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたは今、幸せですか…?
当代アニメーションの騎手となった新海誠。
一般的な知名度は『君の名は。』からだろうが(『ほしのこえ』から注目していたと言うあなたは通!)、その『君の名は。』の原型と言われるのが、2007年の監督3作目。
男女のすれ違い、繊細な心情描写、美しい映像とそれにマッチした音楽…。『君の名は。』の原型に留まらず、新海誠のスタイルを確立させた作品と言えよう。
1時間ほどの中編。全てが完璧に纏められ、私も見たのはだいぶ前だが、魅了された事を覚えている。
満を持して実写化。それもオリジナルや新海人気の賜物だろう。
期待や気になると共に、不安要素もあり。あの完璧な作品をどう…?
私と『秒速5センチメートル』の再会は…
実写化のニュースは元より、キャスティングや続報に驚いた方も居た筈。
松村北斗と高畑充希のW主演。まあある程度役の予想は付くが、でもオリジナルって小学生時代から始まる話。この二人が主演で推されるという事は…?
1時間の中編から2時間の長編に。という事は…?
実写化お馴染みのその後や+αの新規エピソード。
やはりこれがね…。
オリジナルではあんなに作品世界に吸い込まれたのに、途中途中挿入される新規成人エピソードが完璧だったバランスを崩してしまっている。
またオリジナルは章仕立て。本作は時間軸が交錯。これが想像以上にややこしい。見ていて、誰と誰が同一人物…? 誰と誰が繋がっている…? と迷子になりかけた。
松村北斗と高畑充希の好演は素晴らしいが、それを以てしても…。
なので序盤はちと入り込めなかったが、持ち直したのは小学生時代~高校生時代のアニメ再現エピソード。
オリジナルでは第2章に当たる種子島の高校生時代。
高校時代の貴樹役の青木柚の好演、彼に想いを寄せる同級生・花苗役の森七菜の魅力。夕陽の空、ロケットが打ち上げられるシーンの美しさ。
それらもいいが、しかしやはり、最も心に残り、私も本作に入り込めたのは、小学生時代のエピソード。
共に転校生で、クラスから浮きがちで、精神面が似通っている貴樹と明里。他愛ない話や天体への興味で気が合い、親交を深める。
親の都合で明里は中学前に栃木に転校。東京と栃木で文通。ほどなく、貴樹は種子島へ。栃木と鹿児島。また一段と遠く離れる前に、栃木の岩舟駅で会う約束を。貴樹は電車を乗り継ぎ岩舟駅に向かうが、途中雪で電車が停まり立ち往生。待ち合わせの時間はとっくに過ぎ、やっと岩舟駅に着いたのが深夜近く。こんな寒い雪の夜遅く。もう待ってる訳がない。それでも待合室に向かうと…
松村北斗も高畑充希も森七菜も宮﨑あおいも足元に及ばない破壊力抜群の胸キュン。
上田悠斗と白山乃愛の初々しさ、いじらしさ。
だから雪の桜の木の下でのアレも許しちゃう。
幼き頃の二人に救われ、成人エピソードも魅力的になってきた。
あれから16年。共に30前。
システムエンジニアとして働く貴樹。同僚との交流は無く、秘密裏に同僚女性の理紗と付き合っているが、無気力。転職でプラネタリウム館へ。
書店で働く明里。毎日を平凡に。
鹿児島と栃木で遠く離れた筈だが、今同じ東京に居る事を知らなかった。あのプラネタリウムでのニアミス…!
貴樹が種子島時代、親交のあった花苗。その時会っている花苗の姉・美鳥と再会。美鳥が仕事を介して親しいのが、明里。
こんなにも近く…!
お互いうっすら存在を感じる。
気付けばその日になっていた。あの桜の木の下での再会を約束した、地球が小惑星の衝突で消滅する筈の2009年3月26日。
地球は滅びなかった。
それを望んだのか、望まなかったのか、夢見たのとは違う人生が続いている。
ふと思い出す時がある。あの時の事を、あの時の空気を、あの時の感じを。
あの人はどうしているだろうか。幸せにしているだろうか。
それを確認したいなんて、野暮過ぎる。
今会って何になる…?
それでも、それでも、何かが変わるかもしれない。きっかけになるかもしれない。自分の中で何かが…。
貴樹は電車を飛び降り、あの桜の木の下に向かう。
そこに掛かる、山崎まさよしの名曲『One more time,One more chance』。
米津玄師による本作の為のニュー主題歌もいいが、やはりこの曲にはグッとさせられる。奇しくも山崎まさよしが先日、病気でツアー中止を発表したばかり。本作からのオマージュとリスペクトでエールを。
あの時のようにまた雪で、変わらぬ美しい桜の木。
夜の静けさがまた美しさ映える。
待つ貴樹。
ここで再会して欲しかった。
君は、来なかった…。
再会を願った。それを望む自分がいた。
一つの思い。
明里には今、付き合っている人がいる。
明里もこの約束を忘れてはいなかった。でも…。
会わない事こそ彼への幸せの願い。私や約束の事など忘れて、幸せであって欲しい。
これもまた一つの思い。
あなたは今、幸せですか…?
最初はもたつきあったものの、アニメの魅力を損なわなかった奥山由之の手腕に、また一人注目の新鋭監督登場。
そんなに都合良く人の繋がりあるか…? いや、あるのだ。実際に。私も仕事先の人が偶々、子供を通じてプライベートの友人を知っていた。前の仕事の同僚が何と、ご近所。
世間は狭いとよく言うが、人と人の縁や繋がりは無限。天体のように。
タイトルは花びらが落ちる速さ。
本作には他にも科学的例えがある。
人が人生で会う言葉は約5万語。
人と人が出会う確立は0.0003%。
科学的に検証するとそうなのだろう。
が、それらは科学では証明出来るもんじゃない。
人と人の出会いは、繋がりは、運命は、必然なのだ。
共感ありがとうございます!
自分はアニメ版未鑑賞なので、最初の時系列が前後している部分を整理しながら観るのにちょっと苦労しました。小中時代の上田悠斗と白山乃愛、高校時代の青木柚と森七菜が良い演技をしているのに、関係性をすんなり受け取る事が出来ませんでした。
自分の感覚の鈍さもあるのあると思いますが、家に帰ってレビューを書き出してようやく納得できました。
近大さま
共感ありがとうございます🙂
白山乃愛ちゃんは、東宝シンデレラオーディションを最年少で優勝、舞台挨拶の立ち居振る舞いは子役ではなく“女優”でした。
貴樹のプラネタリウムのナレーションを聞いた明里は、その声が貴樹だと分かって「貴樹くんは大丈夫」と安心して、再会の約束を果たさず海外へ行ったのだと思います。
明里と再会できなかった貴樹は、これからは明里の存在が北極星のように道を照らしてくれるといいな、と思っています🫡
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