「秒速5センチメートルを作ってくれてありがとう」秒速5センチメートル 野々ノノノさんの映画レビュー(感想・評価)
秒速5センチメートルを作ってくれてありがとう
「秒速5センチメートルを作っておいてよかった」と新海誠監督のコメントがあったけれど、この度私から両監督へ改めてお礼を申し上げます。秒速5センチメートルを作ってくれて、本当にありがとう。
元々大好きな映画だったけれど、年を取るにつれ、こういう映画に感動することはできないだろうなと思い込んでいた。切なくドラマチックにすぎるし、目に見えないものに心を動かされる感傷やそれらがもたらす物語を信じる気持ちがなくなってきていたから。新海誠監督の名前を見かけるたびに秒速5センチメートルのことを思い出していたけど見直すことはなく、たまに山崎まさよしの主題歌を聞き直すくらいだった。下手に映画を見直してーーそして今回の映画を見て、この作品をもらった感動を否定することになりそうで怖かった。
でも、映画館に飛び込んでみて本当に良かった。作品はだいぶ現代的にリメイクされているのを感じたけど、根幹にあるのはやはりあの秒速5センチメートルの世界だ。イノセントで光に満ち溢れた過去。それを引摺り、いまを肯定しきれず、何を求めているのかもわからずにさ迷う現在。王道なストーリーだけど古くさくなく、主人公もいまっぽい人物像でリアルで共感できた。アニメだとずっと過去に囚われた印象だった。でも、この映画ではそこから少し前へ、いまを生きようとする意志が垣間見える。それがあの踏み切りのシーンに持ってきたのがアニメとの差別化もあってほんま尊い。主人公がその心持ちになれたのもプラネタリウムのシーンで、明里の気持ちを、心を開いて話した館長から伝えられたというのが、物語として美しすぎる……。
いくつもの偶然が絡み合いながら、その偶然によって再会も遠のく。そういう流れがあったからもしかしたら桜の木で再会するのかとミスリードされていた感もあった。そこの裏切りや、明里は一足先に貴樹の存在に気づいていたのに、あえて会わなかったのはそういうことか、と。「貴樹くんなら大丈夫」で泣いてしまった。映画館で涙を流したのは初めてかもしれない。決して恋や愛を求めていたわけじゃない。ただ、生きていくのに必要ななにかを取り戻したくて、それが明里のその言葉だった。そこが現代的にリメイクされていると感じた点の一つだったし、同世代かつ同じことを感じていた自分にはめちゃくちゃ刺さった。かといっていま過ぎるわけじゃなく、スマホもない時代に調整しているのもバランス感覚がいい(1991の伏線にも合わせているのだろうけど)。それだとまたこの物語の質が変わっただろうなという気がする。
改めてありがとうございました。秒速5センチメートルをずっと心のなかにしまっておいてよかった。
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