「アニメの詩情を深化させた、映像美あふれる実写版」秒速5センチメートル まつしんさんの映画レビュー(感想・評価)
アニメの詩情を深化させた、映像美あふれる実写版
実写劇場版『秒速5センチメートル』を観ました。
静かで深く、人生の奥底に触れるような素晴らしい映画でした。
原作アニメを改めて観ましたが、これは“アニメで綴られた文学”というべき作品であり、新海誠の作家性を鮮やかに示していました。実写版はその精神を誠実に受け継ぎながら、誰の心にもある「取り戻せない時間」や「言えなかった思い」をより掘り下げています。
上映時間は倍近くになりましたが、冗長さは感じず、むしろ登場人物の感情がより丁寧に描かれた印象でした。
一方で、アニメ版第二章「アストロナウト」にあたる高校時代のパートは、少し浮いて感じられました。花苗の視点で描かれる片思いの切なさは美しいものの、主人公・貴樹の心情が見えにくく、物語全体の人物像としての一貫性がやや薄まった印象です。また、花苗のその後を恩師との会話の一言で済ませてしまったのは惜しかった。もう少し描かれていれば、より心に響いたと思います。
それでも、アニメ版の詩情を損なわず、実写ならではの映像美と質感で「人が成長しながらも何かを失っていく」切なさを描き出した本作は、誠実で見応えあるリメイクでした。
ラスト、桜の花びらの舞う踏切での貴樹の姿には、過去の痛みを抱えながら前に進もうとする再生の気配があり、静かな感動が残りました。
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