劇場公開日 2025年10月10日

「実写化に真正面から挑み、かろうじての成功例か?」秒速5センチメートル ひぐまさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 実写化に真正面から挑み、かろうじての成功例か?

2025年10月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

癒される

ドキドキ

 本作は2007年の新海誠監督による同名アニメの実写リメイク。「実写リメイク」と書いて僕は「しっぱいあかじだいばくし」と読む(読む)。カネを払って映画館に足を運ぶ僕(もしかして他の多数含む?)は、製作者側の挑戦者精神に拍手を贈るとともに、どこかで失敗を期待している。僕または僕らの期待は高打率で叶い、ここや他の映画サイトであらん限りの難癖や罵詈雑言を並べる。それでも大概は毎々繰り返される。特にハリウッドでその傾向が顕著だ。よほど今日の映画界はネタがないのだろうなあるじぇねぇかよ「ラストマイル」(2024年)みたいな。

 原作の「コア(核)」は、主人公貴樹の途方もなく女々しくなよなよしい陰キャ(誉め言葉である)性にある。身体だけ大人になっても過去に生きる幼児性(誉め言葉?)であり、その成長スピードに桜の花びらが落ちる「秒速5センチ」を当てている。一方女子は相対的に成長が早い。早い上にあっさり。特にヒロインにあっさりさっぱり系の芝居をさせたら当代敵なしの高畑充希。ゆえに客観で「秒速5センチ」とは速いのか遅いのか説明ができない微妙なスピード。それがタイトルではなかったのかな、と個人的に考えている。

 新海誠監督の存在を知ったのがアニメ版「秒速」だった。1時間ほどの全体を3部に分け、はじめの2編がすこぶる良い出来で50分以上が経過し、さぁラスト…といったところを、3作目は趣味の悪いプロモーションビデオに落とされたような気がした。いや本当に椅子からコケたんだ。山崎某は嫌いではないんだよ。「映画」としてキッチリとしたオチを描くどころかそれを放棄したように感じたのだ。自身のブログを振り返っても「最初の2本は95点、最後はマイナス95点」と、我ながらエッジの利いた評点を下していたw。ただ、精密を極めるような映像には感銘を受けた(特に小山駅で)。日本のアニメーションは確実に一歩前進したという手ごたえも感じた。じゃ90点くらいにしておけばよかった。今となっては(反省)。
 そういう最終的には傑作評価であり、新海誠を半ば神格化させたような映画のリメイクである。しかも実写化。成功させたいならば思い切って雰囲気だけを継承し、時代設定や出演者にセリフまでまるっと変えてしまった方がいいのでは?とも思える。が、実写版「秒速」は真正面から堂々と原作にぶち当たり、核の肉付けに挑んだ。気持ちいいよ。しくじり要素がぶわっと増えるのだが、それすらも楽しもうというわけか。今回も拍手を贈ろう(冗談だよ)。

 ここで結論。そう悪い作品とは思えなかった。むしろ水準以上じゃないかと思えた。

 まず現在軸となる設定を2008~2009年に持って行った。2025年の現在から見ると実写での「ちょっと昔」は描きにくい。ガラケーといい当時のファッションといい、喫煙者が多いことも街角にまだ公衆電話が多かったことも。美術さん小道具さんはいい仕事をしたと思う。逆にそれより古い時代を描くことは相対的にはハードルが下がる。ここは岩舟駅がちょっとしんどかったくらい。なおCGだとわかってはいるが、桜満開で雪景色といった光景は現実的にはある。相当に珍しいけれど、少なくとも絶対にない話ではない。CGだけど「きれいやわぁ」。

 奥山由之監督は長編初監督 どこかでこの絵造りカット割りは見たな…と思ったら岩井俊二に近い。いや現状はまだ彼の劣化版かもしれない。商業映画を数作経験した後でこの作品に巡り合っていればという印象を受けた。脚本の鈴木史子も前作「愛に乱暴」(2024年)と同様イマイチ。いらない無駄な描写が散見される。両人とも「若さ」を武器にするには作品規模とまるで釣り合いが取れていない。が、大きな可能性は秘めていると思う。今後に期待したい。
 役者では大人セクションの松村くんはほとんど満点に近い。高畑充希も「国宝」と同様の「結局最後は…」という女性特有の罪のない(感じてもいない)役回りをケロッと演じている。イイねこれ。花マルをあげたいのは明里の幼少自体を演じた白山乃愛ちゃんだ。彼女を見るためだけに映画館に来たと言い切ってもいい。あのシーン(ネタバレ回避)ではちょっと泣きそうになった。「コスモナウト」セクションでの森七菜もまた極めて素敵だ。実年齢24歳の彼女がどう見ても恋愛経験の少ない未成年にしか見えない。原作アニメ同様にその後が一切描かれていない使い捨てキャラではあるのだが、貴樹が中学期から青年期へ移るプロセスを強く印象付けた。ここのところ彼女はよい作品に巡り会えている。本当に良かったと思う。逆に危うかったのは輿水先生を演じた宮崎あおいだが詳論は避ける。

 ストーリー的には前述したような「核」をずらすことなく中心円から拡張させた世界観で最後まで寄り切った感がある。新海原作がもたらしたスクリーンから溢れるような高揚感は感じられなかった。オリジナルは超えられなかったにしろ、それでも合格点はあげてもいいのではないかと思われる。

 いつの世も子供は親の犠牲になり、いつの世も子供たちは子供たちの恋愛を憶え、いつの世も捨てられるのは常に男。蛇足かもしれないが、貴樹(松村北斗)が最後に水野さん(木竜麻生)とくっつく…的な描写があれば…いや、ここはあれでよかったのかもしれない(どうでしょうかね?)。
 ラストシーンは安い。ああなると予感していた(本当に)。踏切カットが重なるのはいかがかと思うが10両編成小田急線の上下かぶりはバチクソに長い。製作者としてはアレで〆たい気持ちはわかる。エンドロールの米津はどうでもいいんだけれど映画で使いすぎちゃいないか心配になる。
 以上。称賛とは言えないまでも考えさせられ楽しめる映画だった。サブスク落ちしたらまた見ちゃうんだろうなきっと。

ひぐまさん
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