「重力に囚われた男、いとも簡単にふりほどく女」秒速5センチメートル ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
重力に囚われた男、いとも簡単にふりほどく女
「ボイジャー1号」は「パイオニア10号」と正反対の軌道を進み
「ボイジャー2号」は冥王星まで「パイオニア11号」と近似の軌道を進む。
元々は同日に打ち上げられるハズの両号も、「1号」のシステムの不具合で
十六日差の発射になったと聞く。
いずれにしろ二つの惑星探査機は、その軌道を交えることはなく、
離れ離れに永遠の宇宙の旅を今でも続けている。
『新海誠』の原作アニメは63分の小品。
それを倍の121分尺を使い、
エピソードを膨らませ人物像を掘り下げ、
新たな物語として提示している。
彼の作品に繰り返し使われる「宇宙」のモチーフをより深化させ練り上げた、
脚本の『鈴木史子』の手練に驚嘆する。
東京の会社でSEとして働く『貴樹(松村北斗)』は、
人付き合いを意図的に避けているように見える。
彼には数年来付き合う恋人『理沙(木竜麻生)』がいるが、
彼女とも心の底から触れ合ってはいない。
それは、小学五年の頃に知り合い、
肝胆相照らす間柄になった『明里(高畑充希)』と
引っ越しのために疎遠になったことを
十数年経った今でも引きずっているから。
幼い二人のふれ合いは微笑ましいと共に、
「ああ自分にもこんな幼少期があったらなぁ」との描写がてんこ盛り。
とりわけ、小惑星が地球に衝突する可能性のある2009年3月26日に
桜の木の下で再び会おうとの約束が結ばれる経緯には、
胸を鷲掴みにされる。
そして約束の当日、二人は邂逅できるのかが、
甘酸っぱいサスペンスとして観客に提示される。
いつでも心ここにあらずに見える『貴樹』に
想いを募らせる異性は多く居る。
彼が発するミステリアスでアンニュイな空気は女性を引き寄せるのだが、
本人は彼女等の気持ちを判っていながら、心から寄り添うことは無い。
『明里』との昔の約束を至極便利なエクスキューズに使っている、ある意味
卑怯な人間なのだ。
そんな主人公に、原作者も脚本家も
手痛いしっぺ返しを用意する。
もっともそれは、観る者が望むカタチではないのだが。
アニメ版を観たのは七年ほど前のこと。
〔君の名は。〕公開後の監督特集だが、
同作と前四作との違いに驚いた記憶。
すれ違いや、
けして成就することはない、
しかし最後に微かな希望がちら見えする男女間のぐじぐじとした恋愛を
描き続けて来た『新海誠』の驚くほどの変容。
個人的には昔の作風により共感する。
今回、原石が新たに磨き出され、
彼が繰り返し取り上げる「喪失感」とのモチーフが
より鮮明になった。
リメイクはかくあるべしとの、
見本のような一本。
想いが成就してほしい半分、酷い目に遭ってほしい半分ですかね。距離が縮まらないボイジャー2機は当然二人の事でもあるんでしょうね。搭載したゴールドディスクは片方はもう誰かに届いたって事ですか。
アニメを観ていないので半信半疑ですが。
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