「原作アニメとは違う痛みを感じた」秒速5センチメートル TSさんの映画レビュー(感想・評価)
原作アニメとは違う痛みを感じた
原作アニメの尺を約2倍にした実写版映画。どこをどのように変えているのだろうという興味があった。
一方で、原作で感じたセンチメンタルさやナイーブさという印象が、柔らかさのあるアニメ画像ではなく、実写で表現されることで、生々しく、現実味のある痛みを感じる重い作品になっているのではないか?という先入観もあった。だから、若干観るのを躊躇した。
鑑賞してみると、自分の先入観は当たっていた部分があったように思う。アニメ版はどこかファンタジー世界を見ている感があり、そこまで登場人物達の痛みを感じることはなかった。しかし、実写版からは、主人公の貴樹(松村北斗)、明里(高畑充希)、花苗(森七菜)、理紗(木竜麻生)の抱えるそれぞれの痛みを感じた。生身の人間が演じるということは、やはりこういうことなのか、という再発見でもあった。
実写版は、原作アニメの重要な要素をしっかりと取り入れながら、社会人時代の話をより膨らませた内容となっており、原作に登場しない人物、登場場面が限られていた人物にも重要な役割を持たせていた。
プラネタリウム館長の吉岡秀隆は貴樹と明里を間接的に繋ぐ役割として。
元教師で花苗の姉美鳥役の宮﨑あおいは、貴樹と明里のよき先輩、理解者として。
オーストラリアに旅立つ明里との別れ際に美鳥が放った「気持ちはそのとき言葉で伝えないといけない(と妹が言っていた)」という言葉が印象に残った。
お互いに気持ちを言葉で伝えなかった貴樹と明里へのメッセージとして挿入されたシーンだろう。約束の場所に行き、現実を受け入れざるを得なくなった貴樹が、別れた理紗に会い、伝えられなかったことを伝えたシーンとの繋がりを感じた。
原作アニメと同様、空、光、電車という新海作品でよく登場する要素が美しく撮られていて、映像監督・写真家としての奥山監督のセンスの良さが感じられた。ミラー越しに人物を写すカットにも何かこだわりを感じた。
どの俳優も演技は素晴らしかったが、明里の小中学生時代を演じた白山乃愛のピュアさには釘付けになった。花苗を演じた森七菜は高校生役なのにもの凄くハマっていて驚き。
松村北斗は、「夜明けのすべて」を思い出した(プラネタリウムという共通点もあり)が、抑制した演技が非常に上手いと思った。
岡部たかし、又吉直樹も好印象(本好きの又吉にはピッタリの役柄だったと思う)。
男性のセンチメンタルさやナイーブさだけでなく、本作には女性側の視点も入っており、生きて行くうえで避けて通れない理不尽、ままならなさ、痛みのようなものを感じるものの、前向きな希望も感じられる作品になっていた。
登場人物と同じような経験をしたことがなくとも、どこかに、誰かに自分と重なる思いを感じることができる作品と言えるのではないだろうか。
アニメの実写化が非常に上手くいった作品だと思う。
共感ありがとうございます!
自分はアニメ版未鑑賞なんですが、アニメを鑑賞した皆さんがおっしゃっている「ほっこり感」と実写版のある意味の冷たさを比較してしまうのがなんだか怖いような気がして、アニメ版の鑑賞に躊躇していたりしてます。
TSさま
共感とフォロバ、ありがとうございます🙂
ここまで135件のレビューを読んできて、微に入り細を穿つレビューに出会えてうれしいです。
誤解を恐れずに言えば、18年前のアニメ版『秒速5センチメートル』の存在は、ある意味「初恋の人」なのではないかと思っています🫡
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