「刺さった棘に抉られる人もいれば、いつの間にかスッと助けている人もいる」秒速5センチメートル Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
刺さった棘に抉られる人もいれば、いつの間にかスッと助けている人もいる
2025.10.11 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(121分、G)
原作は新海誠監督の同名アニメーション映画
小学校の時の初恋を引き摺っている青年を描いたラブロマンス映画
監督は奥山由之
脚本は鈴木史子
物語は、成人パートの貴樹(松村北斗、高校時代:青木柚、小学生時代:上田悠斗)が、雪の中に咲く桜の木に向かう様子が描かれて始まる
そして、物語はその少し前の貴樹の日常が描かれていく
システムエンジニアとして働く貴樹は、周りとの距離を取りながら仕事をしていたが、同じように距離を取りがちな同僚・理紗(木竜麻生)と関係を持っていた
だが、貴樹は仕事を優先し、2人で会う時間も別々のことをしていることが多かった
そんな彼は、小学校時代を転校の繰り返しで過ごし、東京の小学校時代に転校生・明里(白山乃愛、成人期:高畑充希)と出会っていた
転校で不安だった明里を貴樹は助け、2人だけの時間を重ねていく
だが、明里の転校が決まり、2人は日記帳を使って文通を始めることになった
その後、その関係はゆっくりと続くものの、今度は貴樹が種子島に引っ越すことになってしまう
もう会えないと思った2人は、明里の住む街で会うことを約束するのである
物語は、その場所で地球滅亡の日に再会するという約束を思い出す貴樹が描かれ、その恋愛がいまだに彼を縛っている様子を描いていく
明里もまた、実家に戻った時に約束のことを思い出すのだが、彼女はただ思い出しているだけで、行くかどうかを迷うということもなかった
それは、別れたあの日に、明里の方だけに終止符が打たれていて、貴樹の方だけがずっと燻り続けていたからだった
ある種、明里の中で完結してしまった恋愛は、彼女のメッセージが届くことなく終わってしまっていた
そのために貴樹は彼女の気持ちを知ることもできなかったし、キスまでしたのに終わるとは思わなかったのだろう
だが、明里にとっては、そのキスが恋愛の終止符として機能し、それ以上はお互いを苦しめると感じていた
それは、これまでの転校生活の中で刻まれた体験というものがあって、貴樹よりも明里の方が多くの別れをしてきたからのように思えた
貴樹は3度の恋愛を経験することになるのだが、そのどれもが「女性側の完結で終わる」という共通点があった
明里との恋愛は引き摺る原因になっているが、その後の花苗(森七菜)との恋愛は彼女の一方的な好意と悟りによって終わりを告げている
理紗との関係も彼女が悟ることで終止符が打たれるのだが、打たれたピリオドは驚くほどに鋭利で未練も残さないところが凄い
これは男性目線による女性の恋愛脳の切り替えの残酷さを描いているのだが、実際の女性がここまで切り替えが早くて残酷なのかはわからない
巷で言われる「上書き保存と名前をつけて保存」という比喩にも似たものがあるが、ここまでざっくりと切り捨てられると、それはそれで爽快なような気もする
結局のところ、ズルズルとはっきりしないまま続くことに意味はなくて、ワンチャンだと思えることは全て幻想だったりする
なので、これぐらいバッサリと切っていく方が人生は充実していくのだが、それがわかっていてもできないのが男というものなのかもしれません
いずれにせよ、約15年ほどひとつの恋愛に縛られていたことになるのだが、明里からの手紙が途絶えて、どれぐらいで貴樹の中で「過去」になったのだろうか
高校時代には恋愛には興味がなくて、遠い世界のことを考えているのだが、そこに行き着いた理由というものはわからない
おそらくだが、明里との時間が消えたことで、本当に世界の終わりを望んでいたかもしれないし、終わりを告げてくれる惑星を待ち望んでしまったのかもしれない
それぐらいのこじれがあっても不思議ではないので、そこらへんも含めて刺さった棘が抜けない人が多いのかな、と思った
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