「原作アニメ版の世界観・人物像が失われてしまっている」秒速5センチメートル Bigcatさんの映画レビュー(感想・評価)
原作アニメ版の世界観・人物像が失われてしまっている
原作アニメ未鑑賞の方には、感動的な要素も多く、普通に良い作品と受け止められる作品だと思います。
しかしながら、ある程度は原作アニメ版を見ていた私にとって感動できたのは、原作アニメから再限度高く実写化に成功しているシーンがいくつもあったからというところにとどまってしまいました。
原作ストーリーからの改変部分は、元の世界観・人物像から離れすぎていて共感できず、改悪と言わざるを得ない方向への話に変わってしまっていたと思いました。
映画化にあたって原作と違うストーリー展開になることはままあるので、変えること自体を即ダメとは思いませんが、作品の世界観や人物像を、原作よりも良くない方向に変えてしまうのはいただけません。
大人時代の貴樹は女性と同棲しているようですが、どうも恋人でも彼女でもなく、あまり大事にもしてあげていない関係の模様。原作アニメでの人物像とは別人に近く、「秒速5センチメートル」の上映スクリーンと間違えて、隣の違う映画のスクリーンに入ってしまったのかと思ってしまいました。
高校生時代の場面も、かなり残念な方向に変わってしまっていたと思いました。
タバコ所持で学校の先生(女性)に注意される場面もありましたが、さすがにそういう男の子ではなかったはずで。停学処分までにはならなかったとしても、厳重注意くらいは受けそうなところ、あっさりおとがめなしに。
貴樹に生徒以上の好意をもっているから見逃してあげたとしか思えないですが、これも原作アニメ版では考えられない展開でした。実写版のストーリーにすら、特に必要ないシーンだったかと思います。
鹿児島(種子島)に引っ越したという話だから、種子島の雰囲気を出すためサーフィンの場面やロケット打ち上げの場面をもってきた、という程度にしか見えなくなってしまっているのも残念でした。貴樹に思いを寄せていた花苗の心情描写の役にはたっていなかったと思います。
さらに貴樹の大人時代のシーンでは、花苗の姉が東京に出てきていて、大人になった明里(小学生時代に、貴樹とお互い惹かれあっていた女性)と同じ職場で働いている、という設定に変わってしまっていたと思います。いくらなんでも無理やり過ぎで、2人が微妙なところですれ違うというところにあった良さが壊れてしまっていると感じました。
見終わってから考えてみると、高校生時代の話がわかりにくく上っ面だけに変わってしまっているのも、あのような大人時代のストーリーにつなげるためだったように思われます。
貴樹と明里が損得や打算を抜きにして惹かれあっていく小学生時代の話が、「秒速5センチメートル」の原作アニメのスタートであり、ベースの世界観・人物像を生み出していたと思います。実写版でも、原作アニメ版どおり小学生時代から始まっていれば、原作からそこまで離れたストーリー構成にはならなかった(できなかった)のではないでしょうか。
本作品(実写版)では、大人時代の話から始まっていたと思います。貴樹にチャラい面を持たせたストーリーに変えるには、純粋だった小学生時代を先に見せてしまってはさすがにつじつまが合わなくなるから、ということで見せる順序を変えたのかなと邪推してしまいます。
原作ファンには、思っていた以上に残念な要素の多い映画になってしまっていたと思います。
★共感ボタンありがとうございました。
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原作アニメへの理解と敬意がしっかりと感じられる素晴らしいレビューだと思いました。単に「実写は原作と違う」という批判ではなく、どの部分が原作の本質から外れてしまったのかを丁寧に指摘されていて、説得力があります。特に「貴樹の人物像が別人のように描かれている」「小学生時代から描いていれば世界観が崩れなかったのでは」という分析は、原作を大切にしているファンなら誰もが共感する部分だと思いました。
また、作品の良かった点(再現度の高いシーン)にも触れながら、冷静に問題点を整理されており、感情的にならず、作品への敬意を失わない姿勢がとても誠実で、とても勉強になりました。
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