「ONE MORE TIMEはNGなのか」秒速5センチメートル LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
ONE MORE TIMEはNGなのか
新海誠作品はごく初期のものからほとんど観ていて、『秒速5センチメートル』の原作アニメも好きであるが、この実写版ではエンディングを含めストーリーや登場キャラクターを改変・追加してきている。
しかし、それが不自然ではないほどかなり良くできていると感じた。
むしろ、乱暴に言ってしまえば、初期の荒削りな感じを残していた新海誠オリジナルのアニメーションよりも脚本が洗練されていると感じた。
加えて、キャスティング、役者の演技、演出がかなり良いことで、実写がアニメと別物の映像作品と捉えれば、こちらの方が良いかもしれない(…なんて言ったら新海誠に失礼かも、だし、そもそも原作と二次創作を比較して良し悪しをあげつらうのは好きではない)。
新海誠自身、どちらかと言えば一から十まで独りでこなす「アニメ職人」が性根にある。特に初期の作品はそのスタイルが前面に出た「新海ワールド」のテイストが強いと思えるが、今回の実写作品は、より若い世代の複数のクリエイターたちの重層的な視点と才能を経て、素材としての原作の物語をこうした形で昇華した、という良い見本かもしれない。
コミック→アニメ、アニメ→実写、小説→実写、アニメ→コミカライズ、アニメ→ノベライズ、実写→実写(改)…などなど、二次創作にはいくつものパターンがあるけれど、どのパターンが良い悪いと決めつける愚は犯すべきではない。
またもちろん、「忠実な再現」が唯一の正義ではなかろう。要はクリエイティビティが遺憾なく発揮されれば良いだけの話だ。
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松村北斗はアイドルグループ出身ながら、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』や映画『夜明けのすべて』『First Kiss』などで確かな存在感を見せてきた。
濃いキャラの多い若手俳優たちの中でちょっとおとなしいというか、一種の透明感というか、無個性という個性が監督から珍重されるのかもしれない。
しかし台詞語りは巧みであり、自然な会話の間(ま)やキャッチボールを演じられる器用な人だ。
つまり、こういう静謐な作品で流れを乱さずにしっかりと存在していることができる。
一方、この作品でどうしても観たかったのは白山乃愛だ。
直近の第9回東宝シンデレラオーディション(2022)で最年少グランプリを受賞した逸材である。
当方『Dr. チョコレート』も『ゆりあ先生の赤い糸』も『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』も観ていないのでスクリーンで初めて演技を観るのを楽しみにしていた。
やはり長澤まさみ、上白石萌音・萌歌、浜辺美波など錚々たる女優を輩出しているオーディションのグランプリ受賞者だけあって堂々たるものですな。
ちょっと脱線するが、映画会社の視点で見れば、こんなに小さい頃から気長に育成するのは相当な覚悟がいるはずだ。だから東宝シンデレラというのは「普通の子役」を選ぶオーディションではない気がする。開催年も不定期に5~6年は空けているし、芸能プロダクションやTV局が消費するようなタレントを毎年のように量産する指向とは一線を画している。
実力のある(素質のある)良い女優が、時間を掛けてしっかりと花咲く。これは日本映画製作システムの失ってはならない美風だろう。
また、森七菜がどんどんブレークしている。
今年だけでもすでに『フロントライン』『国宝』で大きな存在感を示しているが、この『秒速5センチメートル』では化粧っ気がなく(メイクも最低限?)髪もボサボサの種子島のサーファー高校生がなんとも素晴らしくハマっていた。
思いの届かない男の子の後ろをとぼとぼ歩きながら、立ち止まって泣き始めるシーンは見事だった。
ただ、ひょっとしたら、長じた篠原明里役の高畑充希と、逆の配役でも良かったかもしれない。
遠野の元同僚・元恋人の水野を演った木竜麻生も良いし、中年の色気が出始めた宮﨑あおいも良い。
そう考えると、すごいラインナップですな。
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『秒速5センチメートル』は新海誠の心象風景、しかもかなり内向きで後ろ向きの男の表象だ。
すれ違い、噛み合わない男女のラブストーリーでもあるけれど、基本的には遠野貴樹(演:松村北斗)のいつまでも吹っ切れない過去のナラティブであって、最後に科学館長(演:吉岡秀隆)をカウンセラーめいた相手として泣きながら思いを吐露する。
それは約束の日に約束の地を訪れたが、約束の人(明里)には会えなかった、会いたかった、という告白であったが、館長は
「そこに座っていた人(明里)が言っていました。『私は行きません。相手の人(貴樹)が過去を引きずる人ではないと信じているから』と」(概要)
と伝える。
このエピソードに、もし男女の心理の性差があると仮定するなら、男性は過去に拘るが女性は吹っ切れて前に進める、とも取れる。それは案外、特に男性の側からすると共鳴する点があるのかもしれない。
まったく話が逸れるようで恐縮だが、いつぞやのTBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』でのリスナー投稿で、エピソード内容は異なるけれど同様に20年以上前の過去のすれ違いと後悔と憧憬を胸に、かつての恋人に会いたいという淡い気持ちを持つ男性の投稿が紹介されていた。
このとき、安住アナと組んでいる中澤有美子アナが
「・・・そーですねー・・・控えめに言って、こういうの大嫌いです」
と一刀両断したのには爆笑してしまった。
もちろん中澤アナの個性なのかもしれないが、ひょっとしたら女性の感性として、こういう男性側の一方的でロマンチックな(キモい?)思い込みはNGなのかもしれない。
だから、中澤アナは新海作品がキライかもしれないし、『秒速5センチメートル』は大嫌いかもしれないww
なんとも変なオチで恐縮です・・・・
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