「高崎から千葉までの旅で、彼らはどんな会話を交わしたのだろうか」SPIRIT WORLD スピリットワールド Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
高崎から千葉までの旅で、彼らはどんな会話を交わしたのだろうか
2025.11.8 一部字幕 イオンシネマ京都桂川
2025年の日本&シンガポール&フランス合作の映画(97分、 G)
死後、そのまま世界に取り残された人々を描いたヒューマンドラマ
監督はエリック・クー
脚本はエドワード・クー&金沢知樹
原題は『Yōkai le monde des esprits』で「妖怪:精神の世界」という意味
物語の舞台は、フランスのパリ
娘と愛犬を失ったシャンソン歌手のクレア・エミリー(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、失意のまま、予定されていた日本での公演に向かうことになった
通訳のミキ(五島舞耶)の手助けを借りながら無事に公演を終えたクレアは、そのまま近くの居酒屋に立ち寄った
そこで日本酒をいただくものの、そのまま意識を失ってしまった
彼女のコンサートには、父・勇蔵(堺正章)を亡くしたばかりの隼人(竹野内豊)が来ていて、彼は幼い頃に描いた父とクレアの絵にサインをもらっていた
勇蔵はクレアの大ファンで、かつてはバンドマンとして名を馳せていたこともあった
勇蔵はバンドのリードボーカルだったメイコ(風吹ジュン)との間に隼人を授かっていたが、母親は夫と子どもを残してどこかへ行ってしまった
それ以来、母との音信は途絶え、隼人は勇蔵に育てられて現在に至っていた
勇蔵はピアノの調律師として生計を立て、隼人はアニメの世界に足を踏み入れる
「追悼の碧」という作品で名を上げた隼人だったが、次回作の着想がまとまらないまま、日々に埋没していたのだった
映画は、父の死によって、生まれ故郷の高崎に帰った隼人が、そこで父が行く予定だったクレアのコンサートチケットと遺書を見つけるところから動き出す
コンサートでは隣に父がいるかのような感覚で歌唱に魅了され、父に贈るためのサインも貰うことができた
そして、遺言である母のサーフボードを返すために、隼人は海岸沿いに住んでいる母の家を訪ねることになった
そこには、新しい夫・コウジ(でんでん)がいて、彼との間に息子が生まれ、さらに孫のユウキ(𠮷田晴登)までいた
隼人は何とも表現し難い感情に苛まれ、自身が製作したアニメの主人公のように海へと入って入水自殺をしようと思い立つ
そして、隼人はそこで、父とクレアの幽霊に対峙することになったのである
映画は、地縛霊となった父とクレアが隼人を見守るという構成になっていて、父自身は母親に息子を会わせることができて成仏することになった
クレアにはそのようなきっかけはないものの、勇蔵に連れられて、天国へと向かうことになる
この構造が当初は意味不明だったのだが、これは地縛霊と成仏という概念がない国の人がその概念をこのように解釈している、という構図なのだと思って腑に落ちた
クレアも死ねば天国に行くという概念で生きているが、東洋思想だと輪廻転生のような感じになっていて、命は流転するという考えがある
転生をするためには、この世への未練があったらダメで、それを成すことで次のステージに行ける
クレアは勇蔵が転生に向かう過程を見る観察人であり、これは監督自身の興味であるように思う
そう言った観点からすれば、東洋的な死生観を理解しようとする西洋人的なマインドにも思えてくるのである
いずれにせよ、群馬県の高崎から、一瞬にして海岸のある街(ロケ地は千葉県)に行ったりするので、当初は群馬県に海があったっけ?と混乱してしまった
ちなみにロケ地ベースで考えると、高崎市から千葉県の海沿いまでは5時間ほどで行けるので、無茶な距離ではないと思う
新宿を起点として、高崎に行って、そこから千葉県に行っているという感じのロードムービー的な部分はあるのだが、その距離感は全く感じられない不思議な作品だった
最終的に隼人が何を思って人生をやり直すことになったのかもよくわからなかったが、これまでに拘ってきたのが「母親」であり、その呪縛から解かれたという理解で良いのだと思う
クレアとしても、あの時娘を助けられなかった後悔というものがあって、擬似的に誰かを助けることができた
そう言った観点から見ると、クレアの成仏というものもあってもおかしくないように思えるので、それで良いのかなあ、と感じた
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