「荒廃する地方都市と北京五輪のコントラスト」ブラックドッグ kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)
荒廃する地方都市と北京五輪のコントラスト
まずオープニングの映像が素晴らしい。
色がないグレートーンのゴビ砂漠の広陵とした引きの画に一台のバスが走っている。すると大量の野犬が砂漠に立ちすくしており、次の瞬間走りだしバスの周辺を駆け抜けていく。驚く運転手は犬を避けようとしてバスが横転してしまう。
なんという映画的なドラマチックなシーンであろう。このオープニングからしてこの映画の映像作品としての素晴らしさを確信する。
ストーリー自体は単純だ。友人を何らかの理由で死なせてしまったミュージシャンの青年ラン(エディ・ポン)が刑期を終えゴビ砂漠の小さな町の故郷に帰ってくる(冒頭のひっくり返ったバスに乗っている)。廃墟化しつつある街は捨て犬が野生化し野犬狩りが行われている。ランも野犬狩りの仕事を得るが、最も凶暴で賞金がかけられている痩せた黒い犬との間に友情のようなものが芽生えてくる・・。
この黒い犬の演技が秀逸でカンヌ国際映画祭でパルム・ドッグ審査員賞を受賞している。作品自体も「ある視点」部門グランプリを受賞。
主人公と黒い犬はどちらもアウトローで似たもの同士。一方中国は北京五輪を前に活気に満ちているはずなのだが、朽ち果てた地方都市は繁栄からは取り残され、浄化政策で再開発の対象となり立ち退きを迫られている。このあたりは中国の住民を無視した政治に対して辛辣だ。
ただこうした政治的メッセージは背景にとどめ、この映画が主体として描くのは主人公と黒い犬の友情であり、世捨て人になってしまったような父親や死なせてしまった友人の家族との関係、巡業サーカス団の女性ダンサーとの関係など、荒廃した地方の街にもある人間同士あるいは動物との関係性だ。
それにしても、この映画の最大の魅力はその画のすばらしさだ。残念だが日本映画は現代中国映画にも遅れをとっていると言わざるを得ない。
中国第6世代と言われる気鋭のグァン・フー監督作品。