「こりゃ佳作」ブラックドッグ LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
こりゃ佳作
原題での英語表記はBlack Dogだが、中国語の原題は「狗陣」、すなわち「犬の群れ」であり、作品中では飼い主に捨てられて野犬となった犬たちの集団は出てくる。
しかし、それらの犬の中で特別な黒い犬との絆を中心に描いているというような、良くありがちな「人間+動物の物語」ではまったくない。
主人公の男は、最初は障害があって言葉を発することができないのかと思えるほど台詞を語らないが、実は喋れる。
要するに過去の犯罪で服役したことで、社会性を失ったか、あるいは自ら社会との繋がりを拒絶したのだろう。
くだんの黒い犬も、最初は男を拒絶し、唸り、噛みついていたほどだ。
してみれば、男と黒犬はよく似ている。やがて心を許すようになる。
さりとて、殊更にベタベタとじゃれ合うでもなく、一定の距離を置いているというか、互いに存在を尊重するかのような距離感が好ましい。
物語は、男が改めて故郷に馴染んでいく過程を追うが、馴染むための仕事として野犬狩りがあり、かつて死なせてしまったバンド仲間の伯父一派からの復讐めいた嫌がらせに耐え、政府による故郷の街の有無を言わせぬ立ち退きと解体が同時進行する。
そこに束の間、サーカス(雑技団)の女とのうつろう関係。
夕暮れの町の郊外、砂漠の縁を走るオートバイの前に、じっと男を見守るように取り囲む野犬の群れのショットはなかなかインパクトがあり、忘れられないシーンだった。
中国映画を好んで観ているわけではないが、たまにこういった深い叙情性を湛えた美しい作品に出会うことがあって、ハッとすることがある。
街の名前の赤峡は実在しないようだが、ゴビ砂漠の端っこ、恐らく中国西北部の甘粛省または新疆ウイグル自治区という設定のよう。
