「犬も凄いが、虎も凄いし、檻に入れられたウサギも凄い」ブラックドッグ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
犬も凄いが、虎も凄いし、檻に入れられたウサギも凄い
2025.9.25 字幕 アップリンク京都
204年の中国映画(110分、G)
北京オリンピックを控えた過疎の村にて、服役を終えた青年が懸賞金の掛かった黒い犬と出会う様子を描いたヒューマンドラマ
監督はグアン・フー
脚本はゲイ・ルイ&グアン・フー&ウー・ピン
原題は『狗陣』で「犬の群れ」、英題は「Black Dog」
物語の舞台は、中国・北西部にある赤峡
友人を死なせた罪を背負うラン・ヨンフイ(エディ・ポン)は、仮釈放を認められ、地元に帰ることになった
途中でバスが横転するなどのアクシデントがあったものの、ヨンフイは無事に自宅へと辿り着いた
だが、家には鍵が掛かっていて、父(ガオ・チャン)の姿はどこにもなかった
そこに隣人のラクダおじさん(ニウベン)がやってきて、父は動物園のエサ係をして、家には帰ってこないと知らされる
ヨンフイは高台に登って動物園にいる父を見つけるものの、声を掛けることはできなかった
ヨンフイは、友人を死なせたことでフー一族に恨まれていて、帰ってきた早々に脅しをかけられてしまう
友人の叔父(フー・シャオウァン)から「過失致死」に納得がいかないと言われ、幾度となく謝罪を要求される
だが、彼の怒りは収まることはなく、手下たちに付け回されていた
そんな町では、北京五輪を迎えて再開発の話が浮上していて、そのために野放しになっている野犬を何とかしなかければならないと言う問題を抱えていた
町の有力者で、ヨンフイの叔父でもあるヤオ(ジャ・ジャンクー)はその業務を警察から請け負い、町の若者を集めて野犬の捕獲隊を結成する
そして、そのメンバーにヨンフイも加わることになったのである
物語は、廃墟となった団地にて、ヨンフイが懸賞金を賭けられている黒い犬を見つけるところから動き出す
当初は捕まえて大金を得ようと考えていたが、すばしっこく獰猛で返り討ちにあってしまう
さらに、その犬は「狂犬病」を発症していると疑われていて、町ではその犬の排除を優先していた
噛まれたヨンフイは病気を心配するものの、幼馴染のニエ(チョウ・ヨウ)のアドバイスを受けて、犬とともに隔離生活をすることになったのである
映画のテーマとしては、「嫌疑を掛けられたものの再出発」と言う感じになっていて、殺人者と思われているヨンフイと、狂犬病だと思われている黒い犬の立場はよく似ている
それぞれはその嫌疑を晴らすことになるものの、この土地は生きていくには辛い場所で、旅立たざるを得なくなってしまう
黒い犬は事故が原因で衰弱して亡くなってしまうが、犬は子どもを残していたようで、ヨンフイはその犬と共に旅に出ることになった
この町は再開発が予定されているが、わずかな町人しかおらず、再開発がいつ行われるかもわからない
華々しく都市部で五輪が行われていても、彼らにとっての楽しみは皆既日食ぐらいしかなかったりする
町にはほとんど子どももおらず、雑技団も一瞬で場所を変えてしまうほど過疎っているので、行く末は良くないように描かれている
物語性はあまりないものの、メッセージとしては「新しい生活のためには新しい人間関係が必要」と言う感じに思えた
明言はされないものの、ヨンフイは雑技団のグレープ(トン・リーヤー)を追い掛けたのだろう
背中に背負ったリュックには、黒い犬の子どもらしき犬が入っていたのだが、犬自身もあの地で暮らすことのリスクは大きい
再開発で野犬は取締られているが、その予後と言うのは想像に難くはないので、そう言ったことが行われるであろう土地と言うのも、心優しいヨンフイには合わないのではないだろうか
いずれにせよ、嫌疑が払拭されて、わだかまりが消えても、再出発の担保にはならないと思う
自分自身の価値観と合う町でないと心身ともに良いとは思えず、ヨンフイにとっての赤峡はそうではないと言える
劇中で印象的だったのは、何度となく板の橋にチャレンジしては失敗する場面で、あの場所は友人が亡くなった場所でもあった
友人もおそらくそこを渡ることはできなかったと思うのだが、あの場所は新天地に向かうためのハードルにも見える
最終的にそこを渡ることはできなかったのだが、他の土地に向かうには別のルートを通っても良いと言うことなのだろう
それを思うと、ヨンフイは踏ん切りをつけるためにわざと失敗をしたのかな、と感じた
