「ティモシーの圧巻のパフォーマンス!」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
ティモシーの圧巻のパフォーマンス!
公開週は時間がとれずに観に行けなかったので、1週間遅れで鑑賞してきました。みなさんのレビュー評価が高く、そこそこ期待していたのですが、確かに主演のティモシー・シャラメの演技は圧巻でした。
ストーリーは、1961年、憧れのミュージシャンであるウディ・ガスリーの病気入院を知り、その見舞いのために単身ニューヨークを訪れた若きボブ・ディランが、そこでウディの傍にいたピート・シーガーにその才を認められ、演奏の場を与えられ、女性フォークシンガーのジョーン・バエズを始めとする多くの音楽関係者との交友関係を広げて世間の注目を集める存在となる一方、恋人のシルヴィとも出会い、まさに順風満帆の日々を送っているようにも見えたが、世間や周囲の人々が自身に求めるイメージと自分の思いとのギャップに苦しみ、追い詰められていく姿を描くというもの。
無名だった若きボブ・ディランがどのようにして脚光を浴び、その中でどのような思いを抱いて歌っていたのかが、なんとなく知れたのはよかったです。有名になればなるほど、世間が抱くイメージが固定化し、それを求められ、自身の思いとのズレに戸惑い、苦悩するというのは、よくあることのように思います。そもそも特定のイメージや方向性を決めてプロモーションしているので、それは当然でしょう。そこにアーティストの本音が介在していないことに問題があるように思いますが、売り出す側も利益を上げなければならないので、どちらが悪いということもないように思います。
そんな苦悩を抱えたボブが、プライベートではシルヴィを、ステージ上ではジョーンを傍に置いて、バランスをとっているようにも見えました。二人の女性に対して、それぞれ異なる大切な何かを、ボブは求めていたのかもしれません。しかし、ボブが求めるものも、彼の置かれている状況によって変化し、結果として二人の女性を振り回してしまっているようにも見えました。
とはいえ、当時の社会情勢をよく知らないので、民衆が何を求め、彼に何を期待し、ボブがそれをどう受け止めていたのかは、イマイチわからなかったです。また、アメリカの音楽に疎く、知らない歌手と歌ばかりで、そこまで郷愁を誘われるわけでもなかったので、作品世界に没入するまでには至りませんでした。このあたりの事情に明るい方なら、本作はかなり楽しめたのではないかと思います。自分の教養のなさがうらめしいです。
それでも、ふんだんに取り入れられた歌唱シーンと、その中で俳優たちが魅せる圧巻のパフォーマンスには驚かされます。いったいどれほどの練習を重ねて本番に挑んだのかと、プロの矜持をまざまざと見せつけられた思いがします。これだけでも本作を鑑賞する価値があるというものです。
主演はティモシー・シャラメで、ボブの変容とともに魅せるステージパフォーマンスが秀逸です。脇を固めるのは、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルックら。