劇場公開日 2025年2月28日

「今を生きない」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5今を生きない

2025年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

『ビートルズ』同様、自分が物心ついた頃には
『ボブ・ディラン』も既に頂点を極めていた。

とはいえ、彼のしゃがれた声、ぶっきらぼうな歌い方、
解り難い歌詞は、魅かれる人の多く居る理由が
当時の自分には理解できなかった。

が、本作では、
当時二十代前半にもかかわらず、
既に老成したようなスタイルの良さをしみじみと感じる。

でも、ほんの数年のバイオグラフィーを観ただけでも、
凡庸な男の敵だとつくづく思う。

いるんだよね~、磁力のように
特定の女子を惹き付ける魅力のある男。

代表例として『ジョーン・バエズ』か。
『ディラン』のくしゃくしゃの髪、
よった服装に母性本能を刺激されたのだろうか。

他の女性にも
世話を焼かれ面倒を見て貰える。
傍目からは羨ましい限り。

一方で彼には男たらしの側面も。

その才能故だろうか、
多くの先達たちに愛され引き上げられ。

彼等はなんの見返りも求めず、
若者の成長と成功に目を細める。

物議をかもした
1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでのパフォーマンスについては
相応の尺が割かれる。

やはりロック史に於けるメルクマーク的な出来事でもあるしドラマティック。

変わらないことを求める当時の観客の反応は
傍目からすれば相当に嗤わされる。

自分たちの事前期待に合わぬものは、
外れとして排斥する。

ただ、歌詞をよくよく吟味すれば、
『ボブ・ディラン』らしさの延長線上に在る。
持っている楽器と、演奏のスタイルが異なるだけで。

見た目と耳ざわりだけで拒否反応を示し、
本質に向き合うことはない。

変わらぬことが、自分たちを心地好く満たしてくれる。

他方『ディラン』は今に安住しない、変わらないことを善しとしない。

時として恩恵を施してくれた業界人の意に逆らっても。

自己の居場所に違和感を覚え、
ファンのリクエストにも逆らい、
女性たちからの強い愛情に戸惑いもする。

そんなアンビバレンツな若き主人公の横顔が
鮮やかに描かれる。

何を置いても、主演の『ティモシー・シャラメ』の演技だろう。

顔は似てもいないのに、
背を少しだけ丸めて歩く姿や
歌い方や仕草さは、
往時のフイルムで観る『ディラン』そのもの。

聞けば劇中の楽曲は自らによる生の演奏だという
(エンドクレジットにも、その旨が記されている)。

ものするまでに、どれくらいの時間を費やしたのか。
もっとも、一つの作品のギャラが
億を超えるハリウッド俳優ならではの、
掛ける時間や揃えられるアドバイザーも潤沢な背景もあろうが。

ジュン一