劇場公開日 2025年2月28日

「見応え充分の楽曲実演シーン」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5見応え充分の楽曲実演シーン

2025年3月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

いよいよ週明け、第97回アカデミー賞授賞式が開催予定。作品賞候補10作品中、授賞式前に観られる作品5本目となる(私にとっての)オオトリは『名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN』。土曜のファーストデイである本日、ここなら混まないのではと思って狙いをつけた109シネマズ木場。案の定程々な客入りの中、余裕のエグゼクティブシートで鑑賞です。
1971年生まれの私。洋楽を聴くようになったのは中学に入ってからで、その当時のボブ・ディランはすでに「超大物」でしたがヒットチャートで見かけることは殆どなく、網羅的に聴く音楽の一部でした。勿論、『ウィ・アー・ザ・ワールド』における個性たっぷりの節回しとその存在感には度肝を抜かれましたが、その後も彼の音楽を掘ることはなく、2016年のノーベル文学賞受賞についても正直「へぇー」という程度の印象。と言うことで、この作品がアカデミー賞にノミネートされていなければ劇場鑑賞していなかった可能性もあったわけですが、その程度の興味でも十分に楽しめる作品だと思います。
本作「伝記映画」ではありますが、語られる期間とエピソードはあまり多いわけではありません。1961年、無名のミュージシャンだったディランが間もなく誰もが知る存在となり、1965年7月25日に開催された「ニューポートフォークフェス」に出演するまでのストーリー。フォークミュージシャンとして注目を集め、ヒットソングを出したディランですが、彼にとって音楽のジャンルはそもそも定義が曖昧な単なる枠組みであり、彼自身どんなジャンルも否定することはなく他のミュージシャンへのリスペクトの高さも窺えます。音楽という武器を使って自分を表現し続ける彼は、寝る間も惜しんで制作し続ける日々。(実際、彼のディスコグラフィーをWikipediaで検索すると、尋常でないリリース間隔の短さとその多作さに驚かされます。)次々と湧き出る新作のアイディアに対し、ファンから求められる「定番」と関係者が背負わそうとする「伝統」に嫌気が差し始めるディラン。そしていよいよ1965年7月25日、ディランがフォークフェスに登場し決意の「事件」を起こします。
この僅かな期間の出来事に、作品の厚みと感情を揺さぶるエモさをもたらすのは、何と言ってもティモシー・シャラメ(ボブ・ディラン)、モニカ・バルバロ(ジョーン・バエズ)、エドワード・ノートン(ピート・シーガー)等による楽曲実演シーン。皆さん歌唱も演奏も素晴らしく、曲数も多くてそれぞれ尺も長めにたっぷりと聴かせてくれるのでそれだけでも見応え充分。特にシャラメのアクトは圧巻です。SAGで主演男優賞に選ばれましたが、アカデミー賞では如何に?なお、本作のオリジナルサウンドトラックも配信サービスで聴くことが出来ますので、興味がある方は是非。
そしてもう一つ。本作を観るまで出演されていたことを知らなかった初音映莉子さん。台詞こそ多くはありませんが、眼差しや表情で語る演技で、間に立たされ難しい立場のピート・シーガーの妻トシ・シーガー役はとても好演でした。素晴らしかったです。

TWDera