劇場公開日 2025年2月28日

「一緒に歌わずにはいられなかった」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

一緒に歌わずにはいられなかった

2025年3月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 これは心に染みたなぁ。よかった。

 ミネソタの田舎からニューヨークに出て来たボブ・ディランがフォーク・ソングの新たな旗手として時代を席巻しながらも、多くのファンの期待を裏切る様に、エレクトリック、ロックへと舵を切るまでを描いた物語です。

 歌手の半生を描く映画というと、音楽はその断片を散りばめて「物語を彩る素材」としてだけ描かれる場合が多いのですが、本作はしっかりとした音楽映画であり、ディランが憑依したティモシー・シャラメが彼の歌をしっかり聞かせ、そしてその歌が物語を推進する力強いエンジンになっているのです。また、それを捉える正攻法のカメラ・ワークも観る者の胸に迫ります。

 本作で描かれる1960年代のボブ・ディランを僕は同時代的には知らないし、特に彼のファンという訳でもなかったのですが、本作で取り上げられる曲を殆ど知っており、多くが一緒に歌える程である事に驚きました。

 ”Blowing in the wind”, "Like a rolling stone", "Mr. Tumbourine man" は勿論のこと、"Don't think twice, it's all right", "The times they are a-changing", "Railroad Bill", "It's all over now, baby blue"等々、座席で僕は小さな声で歌っていました。付近には妻以外にお客さんが居なかったしね。僕が Joan Baez のファンだったと言う事もあるけれど、やっぱり彼は偉大な音楽家だったんだなぁ。

 終盤、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルで、アコースティックなフォークソングを求める聴衆から激しいブーイングを浴びながら、激しいドラムビートでエレキギターをかき鳴らすディランの姿はカッコよかったなぁ。でも一方で、彼の”Blowing in the wind”を聴きたいと思っていた人々の気持ちも分るんだよなぁ。日本でも、1972年の中津川フォーク・ジャンボリーで「結婚しようよ」を歌った吉田拓郎さんに対して、「商業主義に身を売った」として多くの聴衆が「帰れコール」を繰り返した事が思い出されます。荒れ地を切り拓いて進むフロント・ランナーに人々は自分の勝手な像を仮託してしまうんですよね。

 そうそう、「特にディランのファンという訳でもなかった」と書きましたが、彼の出身地、ミネソタ州のダルースの聖地巡礼をした事がある事をこっそり告白しておきます。

 本作は大スクリーン大スピーカーで観られるべき映画です。お勧め。

La Strada
きぃちゃんさんのコメント
2025年3月3日

遅くに失礼します。
今日、観てきましたがティモシーがアカデミー賞主演男優賞を逃して残念でしたね。

La Stradaさんは「よかった」「お勧め」としながら、どうして⭐︎ゼロなのですか?
他のレビューでもいつも⭐︎ゼロで、不思議に思っていました。

⭐︎ゼロの理由をお聞きしたいです。

きぃちゃん