劇場公開日 2025年2月28日

「フォークのメロディがいっぱいの幸せな人物伝」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5フォークのメロディがいっぱいの幸せな人物伝

2025年2月26日
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鑑賞方法:試写会

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ボブ・ディランが若い頃から耳に残るメロディで人を惹きつけ、女性たちにも愛され、時代の波を転がりながらサーフしていく。フォークソングの枠に収まることを嫌ったディランは、そうしてジャンルを超えたメロディメーカーとして選ばれた人生を流れるように突き進んでいく。

そんなディランの若き日を監督のジェームズ・マンゴールドはマニアック過ぎず、奇をてらわず、過剰なドラマ演出を排し、時代を彩ったフォークソングを全編に溢れさせながら再現している。そこがいい。これはギターとフォークに夢中になった'60年代世代はもちろん、ディランを知らない世代もギターの爪引きと歌声に取り込まれる贅沢で幸せな時間だ。

だから当然、ディランを演じるティモシー・シャラメをはじめ、実在の人物を演じる俳優たちは全員、吹き替えなしで撮影に臨んでいる。まるでフォークソングで時代を描いた映画のようでありながら、しかし、最後はボブ・ディランという天才の人とは違う生き方に着地させる。さりげなく、巧みな構成は今年のオスカー候補作の中でも抜き出た存在だ。

清藤秀人