キノ・ライカ 小さな町の映画館のレビュー・感想・評価
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「そんな事は問題じゃない」
フィンランドを代表する異能の映画監督アキ・カウリスマキが自身の故郷の田舎町に映画館を作ろうと、廃工場の一角で仲間と共にのこぎり・金槌を振るう姿を記録したドキュメンタリーです。僅か人口9000人の街ですから、そんな所に映画館を作って採算が取れるとは思えないのですが、カウリスマキは、
「そんな事は問題じゃない」
と全く意に介さず、故郷に何かを返したいのだと語ります。カッコいいなぁ。街の主幹産業であった製鉄業が一挙に衰退する中、土地に暮らす人々もそれぞれに期待を口にします。その飄々とした語りは素朴な様でいて、これは俳優が演じているのではないかという匂いも漂います。でも、その辺の胡散臭さもカウリスマキ的として許せてしまうんですよねぇ。ちなみに、本作の監督はカウリスマキ自身ではありません。
オープンした日の祝祭感も素敵です。これから本当に経営が続けられるかどうか僕には分かりませんが、映画ファン・カウリスマキファンとしては遠い島国から声援を送りたい! ここには希望がある。
にわかファンですが、やはり面白い。
世界は映画館を必要としている。
私には好きな町の条件?というようなものがあって。
一つ目は、お城があること。
二つ目は、郊外電車があって、それに乗れば温泉場に行けること。
三つ目は、地元の酒蔵と、本屋と、そして映画館があること。
関東でいうと小田原はこの通りなんだけど、ちょっと町の規模が大きすぎて。今まで行った先でドンピシャなのは上田かな。九州あたりにはいくつかありそうだけど。
アキ・カウリスマキのこの映画はまさにそういうことを言っているわけで。彼の生活においては映画館と、そしてバーがないことは考えられない。だから生まれ故郷に近く、何かと縁のあるカルッキラに映画館をつくった。
この作品はそのドキュメンタリーということだけど、映画館が出来上がるまでを時系列に追っているわけではなく、いろいろな人が映画館への期待や、映画館に関わった経緯や、アキに対する思いなんかを喋っているのをアットランダムに繋いだ感じ。ただ構成は凝っていて、インタビューしている人をまた外から撮影していて、それをさらにTVで観ている人たちを撮影する、といった多重構造になっている。映像は全般に暗い、けど美しい。シーン毎の構図もアーティスティックでレンブラントの絵のようだ。
アキの作品は常に、生活と芸術の接点というか、その二つが溶け合っている世界観を表現している。そしてその生活においては映画館(そしてバー)が欠かせないっていうことですね。
劇映画みたいなオシャレなドキュメンタリー
余りにもアキ・カウリスマキ的
アキ・カウリウマキとミカ・ラッティによる田舎に映画館を作るドキュメンタリーとは言うものの、監督の演出がアキ・カウリスマキ的であり、フィクションの場面も多々ある感じがした。編集のやり方がもう一つ上手く無いようで、場面の切り替えが上手く流れず、必要ではない人物のカットも多々あって、思ったよりも詰まらない内容だった。
余談だが、アキ・カウリスマキもそうなのだが、流れるサントラがイモ臭く、田舎のセンスに思えて仕方がない。率直に言えば、音楽のセンスがダサいのだ。ひずみのない音のロックの感覚が、とんがらない歌謡曲の延長線上にあって、生温く聞こえるのだ。そのイモ臭いセンスが映像化されて、「妙味」になっているところもあるのだが…。何となく「10年遅れてやって来たパンクロックのニュアンス」がアキ・カウリスマキとその周辺の磁場の良さなのかもしれない。個人的には、ユホ・クオスマネン監督な作品が映画館の柿落としに使われたのが、妙に合点が行き、納得もした。
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