敵のレビュー・感想・評価
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男性の秘めたることをバラしちゃいけないと思ってしまう映画
筒井康隆原作、長塚京三が主演。「桐島部活~」の吉田大八が脚本監督。東京国際映画祭グランプリ。
モノクロで丁寧に作られている。初老の域に入った男性にとって、けっこうドキっとする映画。
前半は、一人暮らしをとても丁寧にテンポよく描く。ちょっと気が緩んできたら、後半はホラーのような「時をかける少女」のような掴みどころのない展開。それが、老人の独り身の老いてゆく怖さに繋がっている。
ラストの中島歩には笑った。この人いろんなのにちょい役で、場面をさらってゆく(Netflix「阿修羅のごとく」とか)。売れてるね、この人。
瀧内公美も不倫とか夫を誘惑といえば、彼女が選ばれる(「阿修羅のごとく」)。で、それが実にハマる。河合優実もなかなか可愛い。と男性の下心をくすぐる(中島歩はちがうけど)。
まあ、世の男性で、心当たりがある人は、なんとも居心地の悪い映画だと思う。
その意味ではよく出来た映画。
(そんな男性の秘めたることをバラしちゃいけないと思ってしまう映画)
犬の名はバルザック
仏文学の権威だった老爺が痴態を晒しまくるという身も蓋もない話。『文学部唯野教授』あたりを読んでもわかる通り、筒井康隆のアカデミズムに対する愛憎の強さにはやはり計り知れないものがある。そこが彼の文学の最大の糧というのが凄まじくもあり、同時に物悲しいが…
元大学教授の渡辺は妻に先立たれ、中野区弥生町の広大な一軒家で余生を送っている。一見して『PERFECT DAYS』のように小綺麗な彼の生活だったが、そこへ女という闖入者が次々現れることで歯車が狂っていく。
元教え子の鷹司や、行きつけのバーに出入りする立教大仏文学科生の菅井に対し、年甲斐もなく男として振る舞おうと奮闘する渡辺の姿は滑稽で悲惨だ。
鷹司のためにわざわざ海外のサイトから食品を購入するくだりや、バタイユを読む菅井が「大学で取り上げられるテクストはつまらない」と言ったのに対し「若いうちはそうかもね」と答えるくだりなどは老爺の気持ち悪さへの解像度が無駄に高くて笑ってしまった。
よく言えばラブコメのような日々はしかし、「敵」なるものの存在によっていよいよ妄想の次元へ突入する。「敵」が北からやってくる。曖昧模糊とした不安が渡辺の中で徐々に肥大化し、それと同期して現実の中に妄想が溶け出し、無際限に拡散していく。
後半のめくるめく夢の入れ子構造は今敏やデヴィッド・リンチを彷彿とさせる。だがしかしそれゆえに目新しさは感じない。現実を基準に開始された物語が現実を放棄し始めたら、我々には眼前のカオスにひたすら耐え続けるしかない。しかし耐え続けるに値する視覚的快楽がそこにあったかといえばそんなことはない。
たとえば遂に現れた「敵」が暗闇の中から渡辺に襲いかかるくだりでは、画面に躍動感を与えようとGoProを用いるという小手先の演出が取り入れられるわけだが、それまでのスタブルなフレーミングとの落差に落胆を覚えるだけだった。
本作は渡辺の死をもって終幕を迎える。ゆえに「敵」とは死のメタファーである、との解釈ができるだろう。とはいえそこをはっきり明言しないままエンドロールに突入できるのはさすが『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八だなと感じた。
現実的な非現実、 ザ・筒井ワールド
原作未読ですが、子供の頃SF小説にはまり筒井作品も読み、またドラマ化された作品もテレビで楽しみに見てました。
久しぶりの長塚京三の好演が話題になっていたことと、他の出演者も最近の売れっ子揃いで見る価値ありと鑑賞。
主人公はリタイアして悠々自適の生活だった筈が、少しずつおかしくなっていく感じで描かれていたけれど、本当は最初から既におかしくなっていたのか?とか、中島歩は従兄弟の息子なのか、死んだ祖父の亡霊なのか?本当は主人公の方が亡霊だった? とか終わってから様々想像して楽しむところ、実はSFっぽくまさに筒井ワールド。夢か現実かそのうち曖昧になっていく畳みかけが凄くて、恐怖が加速していく感じ。
老人の一人暮らし、という将来を考えた時、いつまでも1人で正気でいられるかはわからないのかも、なんて考えたりして。
真面目で律儀な現実味のある元フランス文学教授を演じきった長塚京三は昔と印象が全く変わらず美しい佇まい、見事な演技だった。
白黒の映像がストーリー展開や雰囲気に効果的で、しかも不思議と色が見えるような光の使い方で見事だった。
期待通りの作品でした。
こんなメールは来てほしくない
1 老フランス文学者の身に起きた不思議な出来事を描く。
2 規則正しい生活をしていた文学者。かつての教え子に慕われ、幾許かの仕事をこなし、一人暮らしを楽しんでいる。時折家に来る教え子の女子とは現役時代にはちょっとした関係を持ち、今は逢瀬のように食事を共にする。気持ちが若やぎ、よこしまな思いを抱くこともある。そんなとき、敵がやってくるとのメールが届く。以来、身の回りで不思議なことが起
き始める。不審な影が見え隠れしたかと思うと、死んだ妻が姿を現し絡んでくる。そして・・。
3 本作において、敵は何を意味するのか?について、観客に判断を任せている。素直に考えれば、学者は、死に近づいていたと思われる。夥しい血便をもたらす重篤な疾患に罹っていた恐れがあったこと、死んだ妻が学者に見え始めたのは死出の旅路へのお迎えの為であったこと、資金繰りの相談を受け、大金を渡したことで自身の生活資金が激減したことから想像できる。敵に関するメールで運命のテンカウントが鳴り始めたと考える。
4 陰影の濃い白黒の画面は、長塚の悠然とした演技や台詞を少なくしたことと相まって静謐さを感じ見ていて落ち着く。そうした中で、中途から学者の日常のやり取りの描写と非現実的で白昼夢のような描写が境目なく現れるのには面食らった。全体を通せば、本作において、吉田は筒井の現実と虚構がない交ぜになる小説世界の映画化にチョー真面目に取り組んだと思えた。
妄想
老人男性が日常の妄想という敵に
追い込まれていくストーリー。
自分の老いに向き合う姿は滑稽でもあり
切なさも感じる。
自分自身と向き合い考えて、女性に対して
後ろめたさと醜態を死ぬギリギリまで
感じてる男性も多いのでは。
特に、ある年齢の男性に観て欲しい。
犬の名はバルザック★死という『敵』
公開からずいぶん時間が経ってしまった。
鑑賞後の映画見たぞ! という疲労感が心地よい
モノクロームの陰影と自然光が
皺や弛みをリアルに引き立てる
カメラマン 『四宮秀俊』 好きだ
主役の長身俳優。
この人の演技をスクリーンで
見たのははじめて
作り食べる
(料理を見ただけで
飯島奈美の仕事とわかる)
洗濯機の横でたたずむ
下半身裸の後ろ姿
走る
病院での検査の姿態
かと思えば 15歳男子のような
甘酸っぱい空気感を
醸し出してくる長塚京三
2人の女優との会話
そして
後半の亡くなった妻との会話が良い
最近見た 『しらないカノジョ』『ファーストキス』との
共通点も。
・子供のいない夫婦
・タイムリープ
・犬
比較も楽しい
迷惑メール、クリックした後の
パソコン画面が もう怖い怖い怖い
そうだ筒井康隆が原作だった
フランス文学や料理に詳しい人なら、
きっともっと楽しめただろうと
己の不勉強を恥じる
余計なBGMも少なく 音楽 効果も良い
(このレビューのBGM/千葉広樹のサントラ)
ラストシーンへの描き方も
賛否両論あるだろうが 私は好きだ
ラストの遺言に被せての
甥っ子(骨格・体型を主役に寄せてるのも良い)の佇まい。
古いアルバム。
双眼鏡のその先にいる人物
そう。
タイムリープだ
(ファーストキスの松たか子の螺旋のオブジェを思い出す)
そして皆 殺られて
誰もいなくなるのだ
死と言う『敵』に。
仏文学をこよなく愛する元文学部教授の加齢なる妄想と恋
2025年映画館鑑賞21作品目
3月2日(日)フォーラム東根
一般会員料金1500円
原作未読
原作は『時をかける少女』『ジャズ大名』『日本以外全部沈没』『パプリカ』『七瀬ふたたび』の筒井康隆
監督と脚本は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『クヒオ大佐』『桐島、部活やめるってよ』『美しい星』『騙し絵の牙』の吉田大八
なぜかモノクロ
一人暮らしの元大学教授の夏から冬にかけての平凡な日常と妄想または夢
敵は我に有り
『失われた時を求めて』
シュール
多少難解
恋する夢精
どこまで現実でどこまで妄想か
それとも全てが妄想か
ラストも?
敵とは北朝鮮らしいがそれもまた妄想
無意味に近いエロと井戸の登場で村上春樹を連想した
唯野未歩子の登場シーンが好き
面白かった
配役
妻を亡くし古民家に一人暮らしをしている77歳の元大学教授の渡辺儀助に長塚京三
儀助の教え子で離婚を考えている人妻で雑誌編集者の鷹司靖子に瀧内公美
行きつけのバーのマスターの姪っ子で父の会社の経営が苦しく学費を払えず儀助に支援される大学生の菅井歩美に河合優実
儀助の亡き妻の渡辺信子に黒沢あすか
儀助の親族の渡辺槙男に中島歩
儀助の教え子で小道具屋を営む傍ら儀助の自宅の庭にある古井戸を掘る樺島光則に松尾諭
儀助の教え子でロゴのデザイナーの湯島定一に松尾貴史
儀助がフランス文学のエッセイを連載していた旅行雑誌の編集者の望月に高橋洋
望月と同じ出版社の新しい担当者の犬丸健悟にカトウシンスケ
犬を連れて散歩中の女性に高畑遊
儀助の隣人で自宅の前に落ちている犬の糞におかんむりの老人に二瓶鮫一
医師に戸田昌宏
女医に唯野未歩子
司法書士に桜井聖
現実と虚構
前半は現実。
後半は夢の話。
ポイントは「なぜ、今夜はこの夢を見たのか?」という問い。
そしてラストシーンに必要なのは、「そもそも、これは現実なの?」という問い。
敵は誰なのか?そして、味方は誰だったのか?
この映画からは「今、あなたの周りに見えてるモノはホンモノですか?」と問われてる。
そんな映画だと、私は受け取りました。
敵は…
敵は我が身の、「妄想」って、ことね…。
そして、その「妄想」は、恐れと願望があいまって、老人特有の痴呆も絡み当て増幅ざれていくといことね…。
確かに怖い。
まさに痴呆症の人の思考についていかれないように、映画にもついていけない部分があった…。
この先の人生を思った
結果、我々も「人様の恥ずかしく面白い生活」覗いている。
妻に先立たれて独り暮らしをする、引退した仏文学の教授の静かなる生活を丹念に静かに描く前半。
インテリで品のある人物だけに、起床してからの、朝食の支度、食事、身嗜み、清掃など、静謐に粛々とこなす様に、どこか不自然な印象も持ちながらも、独居暮らしのそこはかとなく垣間見られる哀愁に、誰もがいずれやってくる自分の未来を重ねて見てしまうだろう。
その普遍的でヤマもない前半を経て、中盤から虚構と現実な入り混じる展開となっていき、「敵」と呼ばれる未確認な存在と、隠喩を交えながらの物語が紡がれていく。
まーぶっちゃけ、後半から虚構と現実の区別が掴めなくなって、ちょいとお手上げ状態。このあたり、いっそのこと考察系ブログを確認してから鑑賞したほうが面白いかもです。
とりあえずわかったことは、インテリ系老人の隠キャはかなり痛いってことだ。
マジか…老後のために陽キャに転向するかー。
ちょっと大袈裟だけど21世紀の「野いちご」
60歳すぎて、あまりストイックに生きるのも考えものだ!
後半は、主人公の悪夢なのか、認知症なのか、統合失調なのか不明。だだあまり真面目に生きるのも、その反動で前記の兆候が現れるのかなあ~。老人は気楽に生きないと行き詰まるかもしれないと思いました。
しかし瀧内久美が美しい!
新鮮味があるモノクロ映像
筒井康隆の同名小説を実写映画化したヒューマンドラマ。モノクロで描いている映像が非常に美しく独自の世界観に引き込まれました。淡々とした日常生活で一見面白みの無いような展開ですが「敵」が現れる恐怖を絶妙に描いています。
2025-29
筒井康隆ワールドへの真摯な挑戦が可能にする没入感
老醜を晒すくらいなら己の命を絶つと意気込む元大学教授、
その均整の取れた生活は「敵」の到来を告げるメールと共に徐々に瓦解していく。
夏から秋、そして冬へと時の移り変わりを追うモノクロームの映像に
実感豊かな音を乗せて送られる主人公の末期の日々、その恐ろしいまでの実感に圧倒される。
不安、痴情、後悔、そして恍惚……打ち寄せる波にも似た感情は泡沫の夢へと溶けていき、
徐々にルーチンを保てず荒廃していく実生活に観客は主人公の老いを否応なく納得させられる。
そして孤独に震え春を待ち侘びる老翁の背に喚起させられる疑念、
「夏の輝かしき日々も既に忘我の人の妄想に過ぎなかったのでは?」……
その答えを得る者はいない。主人公も、観客も。
筒井康隆作品の本領とも言える世界観をかくも表現しきる熱演と構成に
ただただ敬服と言うほかない。
うーん‥‥?
長塚京三さん、久しぶりでした。
以前は良くドラマに出てましたね。
スクリーンで観るととってもカッコ良かったです。
なんだか不思議な映画でした。退屈を感じる事も無く終始引き込まれました。
しかしながら、理解不能‥?
うーん‥この映画で"敵“と京三さんの幻覚の伝えるモノとは‥?
理解しようとするが、出来ず。
最後のシーンで槙男さんが幻覚っぽいのを見ていたが繰り返すって事?
うーん‥‥‥
げんなりする
主人公の長塚京三が完全に認知症でつらい。うちも母が軽度の認知症で物忘れが激しいのだけど、まだ被害妄想などはないので助かっている。バーの娘の老人たらしっぷりが怖い。それこそ敵ではないだろうか。300万円とられたのは現実なのだろうか。現実と幻覚の境目があいまいに表現されているので何がなんだかよく分からない。
丁寧な自炊が描かれるが炭水化物がグルテンばかりだ。最近実験的にグルテンをオフにする食生活をしているので気になった。
年をとってもいいことなんか何もない。うちはまだ子どもがいるから助かっているが、もし子どもがいなかったら希望など何もなく、先細っていくばかりだ。
大学教授ということで最初から偉そうで、そんな彼がどんどんみっともなくなっていくのが面白い。遺書まで偉そうだった。
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