「仕事ばかりで遊びがないと儀助はつまらない少年になってしまう」敵 かぼさんの映画レビュー(感想・評価)
仕事ばかりで遊びがないと儀助はつまらない少年になってしまう
前から東京国際映画祭を信頼してなかったのでスルーする筈が、原作が筒井康隆と知って鑑賞。
断筆宣言前のものは、結構読んでいたが本作原作は再開後なので未読。
かつて大学でフランス文学の教鞭を執り、今は気儘な執筆活動と貯蓄で静かな生活をおくり、財が尽きる時には自分で人生の幕を引くつもりの主人公のパソコンに不穏なメッセージが届く様になり…っと
あらすじ通りの映画ではありました。
これ、もう始めから狂ってません?
老後の静かな生活を淡々と描き、徐々に進む老い(の中の性と悔い)や認知症、死が敵という形でメタファーとして観客に迫る作りになっていますが、それは物語の構造であって描きたいのは世界の有り様は個人の脳が知覚するものでしかなく、いくらでも変容すること自体では無いのかなあと。
冒頭から客観的視点ではなく、主人公儀助自身の脳内で感じられてる現実(単に妄想と呼ぶのではなく)の変容と恐怖を語ってる様に感じました。
モノクロ映像が効果的に、主人公の家やその室内の佇まいを映し出し、特に台所の整理の仕方とか洗面所の蛇口とか、書斎の本棚とiMacの違和感とか、井戸の存在感とかが、それぞれ少しづつ狂ってる気がする上に、其処彼処で不安感を煽るカメラアングルが、まるでホラー映画の様でした。
私は書斎でのiMacに向かう儀助が、
All work and no play makes Jack a dull boy (シャイニングより)
といつか書き出すんじゃ無いかと、ワクワクしました。
松尾諭の椛島がヤケに井戸を掘りたがるとことか、庭で若者を目撃するとか、もうホラーだろこれって。
最後に2階から儀助が見つめる先は、井戸じゃ無いの?以外と井戸の中に関係各位いらしゃるんじゃ無いの?ほら〜2階の幽霊儀助見つけた甥っ子と、椛島の見た若者は同じでしょ〜?
これシャイニングぽいぞ〜っと私自身が、妄想して楽しめました。
原作は川本三郎氏曰く、老人文学の傑作だそうですが、そんなカテゴリーがあるのも知らんかった。
老人の生態を描くとそうなるのなら、児童の生態を描くと児童文学なのかとか、どうなのかとか徒然思った事は置いておく。
共感ありがとうございます。
どこまで本当に存在してるの?感たっぷりでしたね。石鹸はホントに有ったのか、井戸は在ったんでしょうが・・隣人やバルザックの飼主、そもそも敵ぽい存在も居たのか、最後の死後さえリアル?と思わせる造り、面白いと言えば面白いんでしょうね。