「こんなに面白い映画だったんかい」敵 まつこさんの映画レビュー(感想・評価)
こんなに面白い映画だったんかい
長塚京三主演の映画を観ることになるとはね…。世代的には、というか知識の浅い私にとってはナースのお仕事のイメージしか無かった。
でも、吉田大八監督作品が好きだからってのもあるしキャストが好きな人ばかり出てるからってのもあり観に行った。
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まさかの…。ポスター&予告のななめ上を何倍もいく面白さ…!!
私にとっては面白い理由を言葉で説明するのが難しい映画なんだけど、まずこの作品は長塚京三だけでもずっ…と見てられる。フランス近代演劇史を専門とする元大学助教授であり妻に先立たれた男(長塚京三)の慎ましい暮らしをベースに話が進んでいく。進んでいくと言っても、本人はずっと自分が死ぬことを、死ぬまでの日のすべきことやそれまでの仕事や報酬、貯金のことなど考えながら暮らしている。その暮らしぶりが…なんか堪らないんです。寝てるところ、ご飯を用意する所作、歯磨き、食事をする、珈琲を豆から挽いて淹れる、仕事をする、知人と会う、晩酌する、お風呂…なんでこんなに全て惹き込まれるんだろう?まじでずっと見ていられる。音もずっと心地良い。食事シーンは天下一品過ぎる。豪華なものでもない誰もが食べるような焼き魚や焼き鳥、冷麺など食べてるだけなのに…映像と音だけなのに、なんなら白黒映像なのに、1000%美味しさが伝わってくるの不思議すぎる。天才かよ…。
最初は以上のようなことで圧倒されちゃって、目が離せなくなるし、この元助教授の達観している、浮世離れしているようなアカデミックな雰囲気に、かっこいいなぁオイ…という感想が出てくるんだけど…
どんな作品でも、やはり異性が登場すると大きく何か展開があった訳でも無いのに何か妙に雰囲気や様子が変わってくる。
元教え子(瀧内久美)、知人と呑んでいたBarで働く大学生(河合優実)、亡き妻(黒沢あすか)、皆んなどこかミステリアスでこの主人公に対して好意的なのか何かやましいものを抱えてるのか分からない雰囲気で接してくる女性たち。この人たちが現実や夢・妄想で出て来て関わってくると、徐々にこの元助教授の人間的な面や俗世間的な部分、深層心理のような部分がじわじわ出て来る。
(全く別の映画だけど、「モテキ 」「街の上で」はたまた「男はつらいよ」だったり、ドラマでも「東京センチメンタル」「デザイナー渋井直人の休日」など…コンスタントに女性との出逢いがあり女性に翻弄される男の話が私はかなり大好物で、この「敵」もその要素があったことに、楽しむのが難しそうな映画というイメージが払拭されて良かった◎)
そして…。妄想なのか?現実なのか?寝ている時の夢なのか?白昼夢なのか?の怒涛の展開も途中から出て来て、それがひとつひとつ面白くて…。タイトルにもなっている「敵」って何なん??そこも考えながらも、主人公だけでなく観ているこちら側もどんどん翻弄されていくのがなぜか心地良かった。めっちゃくちゃ面白かった。
人によっちゃ敬遠されそうだけど、純粋に飯テロ映画が観たいという人にも超おすすめ出来る、意外なほど色んな角度から楽しめる映画でした◎