「喧嘩は買おう」スピーク・ノー・イーブル 異常な家族 なつさんの映画レビュー(感想・評価)
喧嘩は買おう
「胸騒ぎ」は劇場で観て非常にムカムカした作品。
パパンもママンも役立たずで娘は奪われ、そして裸に剥かれ石打ちにされるという謎のバッドエンド。
ヤマもオチもなく謎だけが残る胸糞である意味、記憶に残る…
そのリメイク…期待してるぞ!
前回も思ったが、旅行先で出会った相手とは旅先の新鮮さにハイになってる状態も相まって急に距離が縮まるものだ。
パディ家族は最初から、行動、言動、服装ともに非常に下品。料理家への席を取らせない言動にも飛んだ巻き込み事故じゃん。なんなら最初のビーチマットガラガラからイラっとする。
それでもひきつり笑顔なベン夫婦。
まぁ、旅先だからね。
ベンの失業、ルイーズの仕事や引越しの不安。後に判明するルイーズの浮気。
夫婦は常にギスっていた。それを感じてか娘っ子のアグネスは12才になってもウサギのぬいぐるみが手放せない。これはきっと彼女の安心毛布なのだろう。
ここをリメイク前では描いてなかったので、異様にウサギに拘る娘の態度が腑に落ちた。
そこで届くのがパディからのハガキ。遠いけど遊びに行こう!気分転換に!いや、夫婦関ギスリ打破じゃん。
長い距離と迷子にイラつく夫婦。バックミラーにはアグネスの不安げな表情。
到着後、早速ダチョウ料理を振る舞う。オレンジは手で絞る。新鮮ね…
吐き出すルイーズ。隠した後ろ手に映る子供達。
この、所々に映り込む子供達の姿がとても良かった。
首や腕をガッチリホールドされているアントくん。
ガーデンランチではアグネスを挟んでルイーズとキイラが取り合いをしてる様。
ガラスや鏡を使った表現がおっ!てなる。
前半は「胸騒ぎ」で個人的にダラダラして映像が長いなぁと思った部分が少し短めになっている。
ただ、話の流れはほぼ同じ。
パディが散々煽りまくり、キイラがニヤニヤ。
それは言い返してもいいのよ…喧嘩買おうよ…とこっちがイライラ。NOと言えない日本人の私が代わりに言い返すよ〜
しかし、ベンは喧嘩を買えるほど強くはない。
パディに比べたらフィジカルもメンタルも弱々。
ルイーズを、アグネスを守る所か自分さえ守れない。
地に足付かず夫婦間での諍いとそれによる娘の扱い辛さにより守るべきものを見失ううちにパディが洗脳の様に狩りに連れ出し、叫びを上げさせる。
後半は打って変わって、殺人鬼から逃げろ!ドキドキ脱出劇となる。
ここで動くのはアントくん。彼がこの真実を知っていたと言う事は前の子供、その前の子供が次の子供に未来を託し恐怖と心、命を落とすギリギリまでがんばっていたのかもしれないと思うとパディ夫妻に憤りを強く感じる。アントくんはその意思を継ぎ大胆にも鍵を奪い、声亡き声でアグネスに真実を告げる。鈍い大人の気を引く為にルイーズが初潮に見せるの良かったな。12才の少女だからこその知識だし、それを見てうわっわってなるパディの表情よ。子供ではなく女になったから。動揺が疑われる事のない完璧な理由をアグネスは作り出した。
パディに支配されつつあったボンクラな大人達よりもずっと頭の回る子供達。
そんな子供の訴えに守るべき物を再確認しルイーズが立ち上がる。それに続きやっとベンも立場を理解し強気に反撃できる様に。
鬼は3人、家のことは知り尽くしている相手だが小道具を使い子供達を守る為に戦い始める。ダチョウ肉を食べさせられたアレを見つけた時のルイーズの顔…これで刺したいよね。
アルコールで浮いた炎で作られた忌わしい友情は火炎瓶で終わらせよう。
パディが数々の夫婦を殺害し、子供を取り変え続ける行動にお金目当て、キイラの子供が欲しい説ときちんと設定がしていて分かりやすい。
「胸騒ぎ」ではその辺りがイマイチ分からなくて石打ちとか「お前が差し出した」とか宗教ちっくだったのでモヤモヤしない。「お前が差し出した」ワードは相変わらず出たが、世の中に対する憤りの様にでた感じで、なんかゴリ押しだったけど理解はできた。
最後、動物用の注射をされて倒れるパディ。
キツネを撃つ事ができない様にとどめを刺せないとベンとニヤつくパディ。
そして、アントくんが岩を振り落とす。何度も何度も何度も叫びながら全ての叫びを出し切るまでに。
この、岩でとどめをさすのは「胸騒ぎ」のラストで被害者夫婦が石打ちにかれるのをなぞってる。
満身創痍の帰り道、バックミラーにアントくんの表情が。
喜びも悲しみも無く魂が抜けた様な青白い顔。心配そうに見るベン夫婦。
差し出されるウサギ。それを手に初めて彼は涙を流す。
今作はなんだか手に汗握るバトルも良かったのだけど、このアントくんの涙に全てを持っていかれたなぁと。
このシーンを観る為の視聴時間だったのではと思うほどにの感動と安堵感。
このウサギがアントくんの傷を癒す間の安心毛布であれ。