「鹿なくては、ご祭事はすべからず」鹿の国 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
鹿なくては、ご祭事はすべからず
鹿も鳥も蛙も稲も桜も、みな生きている。それを賛美するかのような映像がとても美しく神秘性を帯びていて、馴染みのない祭事を眺めながら目に焼き付けようと目を凝らす。一つ一つのシーンはとても魅力的だったのだが、観終えて、じゃあこの映画は何が言いたかったのか?という答えが見いだせない。一本筋があるようで、散漫な感想しかない。それが正直なところ。湖畔にある神長官守矢史料館にもあるように、狩猟の対象でもある鹿は縄文、稲は弥生。諏訪は、その二つが融合してきた地域だと認識していたので、その視点で語られるのかと思っていた。そもそも資料館について触れなかった(それとも見落とした?)。大祝や神長官を扱うなら、タケミナカタが諏訪にやってきた時に先住のモリヤ神と争った「諏訪版国譲り」に触れるのかと思っていた。ま、それはこちらの勝手な憶測と希望なわけで。君はこの映画を理解していないというのでしたらそれはそれで甘受しますが。そう思うよりも、諏訪とはなにか?というテーマを追求したものと思わずに、御室神事の再現などの記録映画だと思えばいいのか。そう、その神事に中西レモンが出ていたとは気づかなかった。あの目立つメガネしてなかったんだもの。
それはそうと、祭のときに『諏訪大社よ、動物を殺すな』とでかでかと書かれた幕が掛けられていたな。当然、外部の動物愛護団体なんだろうけど。なんで近頃はこういう声が大きい世の中になったのだろう。動物を粗末に虐殺しているわけでもないのに糾弾する思想が理解できない。その人は一切の生命物を口にしないんだろうか。動物はもちろん、野菜をはじめとした植物類だって生き物だ。この映画の中の稲の発育を見ればそう思わざるを得ない。生き物が生き物を糧とし、命をいただいていく大きな循環で世界が成り立っている。殺すなと声高に叫ぶほうが、どうかしている。殺しているんじゃなく、感謝の念を持っていただいているのだよ。たぶん理解しあえないと思うけど。