「すべてのキャラが愛おしくて、まるで天体図にある星座のようなつながりを見せてくれる」この夏の星を見る Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
すべてのキャラが愛おしくて、まるで天体図にある星座のようなつながりを見せてくれる
2025.7.7 MOVIX京都
2025年の日本えい日本映画(126分、G)
原作は辻村深月の同名小説
コロナ禍に青春を奪われた高校生たちが天文学でつながる様子を描いた青春映画
監督は山元環
脚本は森野マッシュ
物語は、2014年の夏に、牛久市で行われた天文学イベントに出席する中学生の亜紗(桜田ひより)が描かれて始まる
ISSに搭乗予定の宇宙飛行士・花井うみか(堀田茜)の言葉に感銘を受けた亜紗は、高校に入るなり天文学部に駆け込んだ
そこにはナスミス望遠鏡を作りたい飯塚(水沢林太郎)もいて、部長の晴菜(河村花)たちとともに、スターキャッチコンテストに臨むことになった
顧問の綿引先生(岡部たかし)の指導の元、高校1年を過ごした亜紗たちだったが、翌年はコロナ禍の到来によって、クラブ活動も制限されるようになっていた
一方その頃、東京に住む中学生の安藤(黒川想矢)は進学先のサッカー部が廃部になってしまい、路頭に迷っていた
クラスメイトの天音(星乃あんな)は何とかして彼を理科部に入れようとアプローチするものの、安藤は全く興味が持てなかった
だが、サッカー部の先輩・柳(秋谷郁甫)がサッカーを辞めて物理に入れ込んでいることを知り、徐々に興味を持ち始める
さらにその頃、長崎の五島に住む円華(中野有紗)の旅館はコロナの風評被害に遭っていて、それが原因で幼馴染の小春(早川憩)と距離を取らざるを得なくなっていた
吹奏楽部にも居づらくなった円華だったが、東京から離島留学制度で来ていた野球部の武藤(和田庵)が心配して声を掛けてきた
武藤は天文台の観測ショーに彼女を招待し、友人の小山(蒼井旬)、東京から戻れなくなっている輿(萩原護)とともに参加することになった
物語は、亜紗が安藤から電話を受けるところから動き出す
安藤は「スターキャッチは中学生でも参加できますか?」と聞き、亜紗は反射的に「できる」と答えた
亜紗は綿貫先生に事後報告をして、「オンラインでスターキャッチコンテストをしよう」と提案するのである
映画は、亜紗たちが本格的にオンライン開催に向けて動き出し、行けなかった修学旅行先の長崎に向けて発信する様子が描かれていく
その発信は天文台の館長・才津(近藤芳正)を経て、円華たちの元へと届いた
そして、茨城、東京、長崎の3つの都市の4つの学校が、オンラインでつながることになったのである
映画は、コロナ禍に青春を奪われた子どもたちを描いていて、今だとあれはなんだったんだろうと言う感じに思えるのだが、当時を生きた人にとっては、これほど苦しい時代もなかったと思う
普通の高校生たちがしてきたことをさせてあげたいと思う大人もいて、子どもたちの発案を無碍にしたりもしない
そう言った優しさもある一方で、友だちを気遣ったり、寄り添ったり、時には恋の応援もしたりするのが初々しくもある
それぞれが学んできたことを誰かに伝えていって、それが伝播して誰かの勇気になったりもする
社会に迎合することなく、その中で抗い続けた人に向けてのエールにも思え、あの時間は無駄ではなかったことを思い起こせるのではないだろうか
個人的には普通と呼ばれる青春時代を過ごしたと思うものの、普通だったが故に何も残っていないなあと思ったりもする
覚えていることが「中学の修学旅行は雨でどこにも行けずに3日間体育館で過ごした」とか、「高校の修学旅行は雪でバスが動かず生まれて初めて新幹線に乗った」とかだったりする
ある意味、ハプニングの方が思い出になりやすく、そこで何を思い、何をしたのかと言うことが大事で、その時の経験は社会に出ても役に立つのだと思う
見えないものを見ようとする努力、知恵、起点、人とのつながりというものは「普通」では生まれづらいものだ
そう言った意味においては、貴重でかけがえのない時間を過ごせたのではないかと、羨ましくも思えるのである
いずれにせよ、優しい世界が描かれていて、真剣にあの時を生きた人々の面影が残っている作品だった
コロナ禍の総括と言うのは難しいものだと思うが、個人的には「会うはずもない遠くの人と会う機会を作り、親しい人が遠くに行っても近くに感じられる世界を作った」と言うふうに思っている
一期一会の先にある世界は、その瞬間を生きた人たちの行動によって未来につながるもので、そう言ったものを強制的に促進させたものでもあったと思う
オンラインのスターキャッチを見ていると、オンラインの先にある人を信じていないと成立していない競技だと思えた
自分のチームを勝たせるためにジャッジをすることもできるイベントだが、不思議と誰もがそんなことを思いもしない
このような価値観が人間不信で満ちていた時間にも失われなかったのはすごいと思うし、アルビレオで負けた天音が言う「これは勝ち負けではない」と言う言葉は素敵だった
様々なドラマが展開され、近くにいながらも分かり合えないもどかしさなどもあるのだが、映画では何気ないセリフの中に「思いやっている人が見ている景色」と言うものがたくさん出てくる
同じようにあの時代を生きているのに何かを埋められなかった人にとっても、それが何なのかがわかる映画だったのかな、と感じた
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